灰の城

小真珠 この小品は『幻影の彼方』さまトップページ展示作品です 小真珠


沈みこむモスグレイのいろの
彼方まで。
そよめく湖面ゆらゆらと
銀の冠、さざなみに乗せ。

ただ一度
ひときわ強くみなはだを
さらいゆくかに風の吹く
こごりの一陣の風の吹く。


その一瞬に天の割れる。


アッシュグレイの
鉛のいろの
重ね重なる雲と雲

ゆうるりと
天の引き窓開きゆけば
その姿
鴇のいろに
一斤(いっこん)のいろにと
染めあげて
それより一条の金のひかり
瞬時のうちに
流れ落ちたと思えば
次々と。


幾帯の、天より落つる
練糸(ねりいと)の
ひかりのなかの
その一筋の照らす元
そこにあるのは城の跡。
廃墟にと
瓦礫にと成した城のあと。


湖畔に聳え立つ城の
面影ふかきその場所に
ふと、ひとつの人影の
黒き王たる人影の
天を見上げるその姿
垣間見えたに思われたのは
ただのこころの残響か。




神よ、そこにおわすだろう。
おわし、すべてを見るだろう。

如何に思われる、何と感じられる。
これこそが御手に
創られたものたちの所業。

あはれとその上段より
微笑にただ見つめられるか。


それでも人は祈るだろう。
御身を信じ
御手差し延べられるを信じて
ただ、祈るだろう。


天を染め上げ
落ちるひかりのそのなかに
御姿見ぬわけにゆかぬのは
それもまた
創られしものの宿命(さだめ)と仰せか。




差し込むひかりの金色(こんじき)の
舞台は瞬きのひとときの
今はもうひといろに
パールグレイへと暮れなずみ
ひたりひたりと漣の
苔むす城たる壁の跡に。


ただ音もなく、音もなく。





-The vision on the ruined castle, in the greyish, greyish distance -



-end-


-面白かったと思って下さった方、宜しければ!-


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小真珠 僭越ながらこの作品を下敷きに創作下さった素晴らしい
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