moon in the dusk

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UP 『“連作・修羅” 外伝5・巴』UP(5th.Nov.2022)

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Works' Short-Cut



Yoitsuki-Hiyori

5月1日
皐月。今日は緑雨。
最近色んな事をふと思い出す。想い出というのは一体どこから湧き出てくるのだろうかな。
そんな想い出のひとつ。成人式を前に、振り袖を作ってもらう事になって、着物は帯問屋をしている叔母の処で一式しつらえ、その着物を仕立ててもらう為に、母が結婚前に和裁を習っていた先生のお宅にお邪魔する事になった。母は私とは全く違って元来器用な人間で、実家が呉服屋だった事もあり、和裁の腕はそこそこであったけれども、晴れ着の中の晴れ着である振り袖はやはりきちんとした人にという事になったらしい。もうすっかりご高齢のその方は、女性ながらひとつの手仕事をこなす職人気質が滲み出るようで、私などすぐに萎縮してしまった。こぢんまりとした古い古い家屋の、古びて黒光りする廊下や柱。今のような、サッシなどではない、がらがらと音を立てるガラス障子。ちいさな庭の青青とした木々。静まりかえった空間。ここに母は、結婚前に、何年も通っていたんだ。私の知らない、まだお嬢さんだった頃の母がここに座ってお針子をしていたんだ。その時は、特段それが、どう、とは思わなかった、何故、思わなかったのだろうと今になって思う。私の振り袖はとても素晴らしい出来映えだった、らしい。なにしろ私に着物の仕立ての善し悪しなんてさっぱり分からない。「さすが先生やわ」と母が漏らしていた。それを着て同級生たちと成人式に行った、のが、もう一体どれだけ昔の事だろう。先生亡くなりはったんやて、と聞かされたのはそれから十年経つか経たないかだっただろうか。何もかもが想い出のなかに沈んでゆく。沈んだ想い出が時折ふいと顔を出す。顔を出す度、わたしは微笑み、浸り、そして、泣く。





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