親指に軽く力を入れ、くいと手首を返すと、こっ……と、鍵穴からくぐもった 音がした。重いドアを開けると、新築独特の、つんと鼻をつく匂いが、閉じこ められた熱気と共に、今を待ったとばかりに身をくるみ来る。 一部屋を大きくとった、家具付きの1LDK。先立って送った衣服等々の詰 められた、段ボール箱がふたつ、居間の端に丁寧に置かれている。 “相変わらずの、待遇ぶりやな。” 長く見積もっても、秋の風の吹く頃まで。その間をひとり過ごすには充分すぎる。 尤も、転がり込む奴でも出てくれば、多少の手狭にもなるかも知れないが。 ベランダに通じる居間のガラス扉を開けると、緑深い丘陵の森がすぐそこに、 重い湿気と日の熱を、存分に乗せた、まといつくような樹木の匂いのなかに、 潮の香りのごく僅かに、混じるように思うのは、ただの気のせいか、それとも 実際、風がここまで運び来るのか。 視線は遠く、あらぬ方に、じとりと汗に、背中の、肩の、腕の皮膚に張り付いた、 腕まくりをしたシャツの胸ポケットより、まるで無意識下のような手付きに、煙草の 箱を取り出せば、ぽんとその上部を軽く叩いて覗く一本を、口に咥えて火を点ける。 ふう、と吐き出される紫煙。 “こんなふうに、ここに戻ってくるとはな。” 覆うばかりの榊の大木の、点々と落ちる木漏れ日と、慣れ親しんだ、むせる ような潮の香り。朽ち果てそうに古びた祠を前に、その中に身を置いていれば、 つんざく蝉時雨のなかに、人の声の交差した気がした。 「あぁ、本当に。一望できるのね。」 「せやろ。絶景ポイントや。」 “カップルか……。ええわ、ちょうど用事も済んだし。” 夕刻に、暮れゆく夕陽を波に受ける、海を眺める男女の背中に、疎ましげな 一瞥を投げ捨てて、素早くその場を後にしようとすれば、すれ違い様に、男が 胸ポケットより煙草を取り出す仕草。 “な……。鎮守さんの杜やで!?” 斜に振り返る恰好に、挑むかの目つきを有していたのだろう、それを敏感に 感じ取った男の視線がこちらを向く。 気付いたのは、驚きに目を円くしたのは、どちらが先であっただろう。 「青(ショウ)……兄(に)ぃ?」 「リュウ……か?」 ふたつの声のかけあいに、潮風にさらわれぬようにと手を、目深く被った帽子の 上に、乗せたままの恰好に、ゆっくりとこちらに、顔を体躯を向けた女性の容姿に、 思わずリュウは息を呑む。 ウェストを、やわりと締めた、それだけの、飾り気の殆ど見受けられない真っ白の、 ワンピースの膝をぎりぎりに隠す裾と、烏羽色の、つばの広い麦藁帽子の下より 垂れる、長いストレートの黒髪を、潮の風にゆらゆらと遊ばせて、その髪と帽子の 御簾より覗く顔には、薄い化粧の施され、やわらかいほほえみを静かに乗せている。 「お知り合い?」 声までもが透き通る。 「あぁ。幼なじみや。なぁリュウ。」 「……あ、はい。」 何、このドキドキ。顔も上げられない。 落ちたままの視線に飛び込む、これもまた黒く細い革紐の、数本の交差する、 ヒールの低いサンダルの、先に覗くペディキュアの、榊の朽ち葉の湿った土の、 なかに真珠のいろの淡くに眩しい。 「お前、今も野球、頑張ってんねんな?」 青の、以前よりもずっと低くなった、声にふと我を取り戻す。 重ね着られたカーキと、オレンジのタンクトップ。太腿の、真ん中辺りより短く切られた オフホワイトの、カーゴパンツ。下にはハイカットのバスケシューズ。それらより覗く、 顔、腕、手の甲、脚、それぞれの、陽の焼け具合に随分と、差が出来上がっている。 「あ、うん。オレな、今、ピッチャーやってる……部活でやけど。」 「へぇ。すごいな。」 ようやくに顔があがる。 「うん!」 目一杯に笑みを露わに見れば、変わったのは声だけでなく、さらさらと風に なびいた、濃茶を帯びた青の髪は、アッシュグレイに色を抜かれ短く刈られ、 立ち上げられ固められて、まるでハリネズミのよう。 「戻って来たん……?」 「いや。ヤボ用。済んだら帰る。」 「そっ……か。」 寂しげな口調に、思わず青は瞳を細め、その手をリュウの、シャギーを存分に かけたショートカットの頭に伸ばせば、丁度それは、青の肩と同じ位の高さに、 それをぐいと一度揺らせてみせる、優しく、けれども力強く。 「頑張れよ。ピッチャー。」 「うん。」 微笑みながら立つ女性に、素早く深い一礼をして、別れの言葉ひとつ残さず、 リュウは軽やかな足つきに、なだらかな坂を駆け下りてゆく。 「可愛いのね。自分の事、“オレ”なんて呼んで。」 ふふ、と、それこそまるで子供のような、笑みを隠そうともしない、青の顔を、 ちらと見遣る。 「幾つになるの?」 「俺と五つ違いやから……えぇ、もうあいつ、14歳か。中二か。」 くす、と、今度は女性の方。 「五つ違いなら私と同じね。」 ふん、と、次には一気に大人の表情に。 「せやな。お姉様。」 真っ白のワンピースの、肩に手を回す。 「14歳……これからね。これからどんどん、大人の女になっていく。」 「そうなんか?」 つばの広い、麦藁帽子を反対の手に取りながら、その手に細い腰をぐいと 抱き寄せる。解放された黒髪の、潮の風にふわりと舞い、見下ろすように 見つめる青を、ほのかな香りに絡め取る。 「鎮守の杜なんでしょう?」 「せやな。」 おしゃべりはここまでと、唇を重ねる。肩に回した手が、すぅと動いて、 汗に湿るうなじを這う。 蝉時雨、潮の香りのなかの。 「泊まっていくやろ?」 抱かれた肩をほどくように、身体を反(かえ)してもう一度、海を見る。 「そう思っていたけど。帰るわ。ね、何か美味しいもの、ごちそうして。」 脱がせた帽子をぽんと、元の位置に返しながらも、ふ、と今度は溜息まじり。 「あぁ。安うて旨い寿司、食わす店あるわ。」 「よう、野球少女。部活帰りか?」 人気も、車通りもごく少ない、海岸通りの車道の、左端をゆっくりと走らせていた 大きな鞄を前籠に、詰め乗せた自転車の、前輪を思わずよろけさせた、 ユニフォーム姿のリュウは、それでも流石にすぐに立ち直らせ停車をするが、 何だか妙な物腰に、一度ごしごしとアンダーシャツの腕に、野球帽に隠された 顔をこすりつけ、それからようやく言葉を発する。 「なんや、この外車。やっぱりショウ兄ぃのやったんや。鎮守さんの杜の下に 停めたぁった。」 くぐもる、声。 長い夏の陽の、落日を控え朱みを帯びる、光に照らされた、濃いインディゴ・ ブルーのワーゲン・ゴルフ。開き切った窓もとに、袖を捲られ、露わとなった肘を 乗せ、またその上に乗せる青の笑顔を、それらは一気に吹き飛ばす。 「なんや、どないした。」 「……別に。なんや、今日はひとりなん。」 リュウはちらと、視線を暗い車内に投げるだけに、顔を合わせようともしない。 「何、凉子か?もう帰ったよ、とうに。俺の故郷(くに)観に、ひやかしに来た みたいなもんや。」 「……なんや、彼女と違うん。」 吐き出すような声音は、その色合いを少し変えはするものの、より弱々しく、 まだ、帽子に隠された目を見せない。 「やったらええけどな。 ウチがよう世話になる、一流どころのクラブのママや、 あの若さで。到底太刀打ち出来んわ。」 何をべらべらと、ガキ相手に。 そう思った瞬間、後部より走り来るクルマが大きくクラクションを鳴らし、センター・ ラインを大きくはみ出して走り去った。 リュウは自転車を、青はゴルフを車停めに停めて、いまだ熱を貯める防波堤 より続く階段を、下へ下へと降りてゆく。日暮れを待つばかりの海岸には、 今や流行りと押し寄せる、スキューバ・ダイヴィング目当ての、若者達の姿も殆どなく。 波打ち際は遥かに遠い、松木の立ち並ぶ、適当な場所に青が腰を下ろせば、 まるで仕方のないように、ゆっくりとリュウもそれに従い、大きな鞄をすぐ横に。 「ショウ兄ぃ、いつまでこっちに居てるん?」 ようやくに重い口を開く。 「さぁな。仕事終わるまでやから。」 「……夏休みの間は、おる?」 「せやな。その位かな。」 ざん、ざん、と、寄せては返す、規則正しい、波のおと。 近くに、遠くに、繰り返し、繰り返し、谺のように。 「……正ピッチャー、ゲンに取られた。」 青はその顔を、ほんの少し、傾け少女を見遣るが、リュウはと言えば、 ただ粗い砂をさらさらと、手に取っては落とし、落としては掬っているばかり。 「……打順も降格。1番やて。ずっと5番やったのに。」 とうとう顔を、立てた膝の内に埋めてしまう。 「ゲンなんか。リトルリーグでも、50m走でも、負けた事なかったのに。」 蒸せるような浜の砂と、脚の間の狭い空間に、吐き出された言葉は震えるように くぐもって、そのままそこに留まり続ける、逃げ道もなく。 女に泣かれるのはたまらない、こんなガキでも同じか、いや尚更かと、青には 成す術もなく、ただ、ぽんと肩を、軽く叩くくらいしか。 随分陽が西に傾いたのだろう、波の色に次第次第と変化を見せる。 この辺りの海は、岸よりすぐに水深をぐんと深め、それゆえに海水浴には 適さない。その恩恵か、美しい自然をずっと留め、留めて来たのだけれど。 ようやく、ずず、と鼻をすすって、へへ、と気丈に少女は笑う。 「オレな、ショウ兄ぃの事、ずっと憧れやった。」 「次(つぎ)兄ぃがリトルリーグでレギュラー取ったからて、観に行ったんやけど。 オレはもう、次兄ぃなんかより、ショウ兄ぃのピッチングに釘付けで。 ショウ兄ぃ、ほんま、凄かった。あのとき、オレ、決心したん。 絶対、野球やるって。絶対、絶対、ピッチャーになるて。」 あぁ、と青は腑に落ちる。リュウの下の兄、明隆(あきたか)、通称“アキ”と 青はクラスもリトルリーグでも一緒に、自由奔放な明朗さが共に居て心地 良かった。家に遊びにも来、また行きもした。そうすれば幼いリュウが、そこに 居た。 あの時凉子が言った、それからふとした折りに気になりだしていた。 そう言えばほんの幼女の頃にはリュウは、自分を”オレ”呼ばわりなどは せずに居た。 アキがショートにレギュラーを取った、11歳の時。つまりはリュウが6歳の時。 並み居る上級生を尻目に、青が正ピッチャーの座を射止めた時。 それが分かれ道となったとは。 「アキか。懐かしいな。どうしとる?」 「都会で元気にクルマ乗り回してるわ。ショウ兄ぃとおんなじや。」 棘を隠そうともしない。 リュウの、アキの実家は代々続く造園業に、潮より樹木を守る技術を相伝 する名家。その程度の金銭的余裕は充分にあって当然なのだろうが。 「……家には、戻れへんの。」 「勘当息子やからな。」 自然、声のワントーンを低くする。ああ、まただ。こんなガキ相手に。無意識下に 手が胸ポケットをまさぐる。 ようやく顔をもたげたリュウの、視線は何故か煙草の箱に。 「あぁ。タバコ、ええか?」 「なんや、変な柄やな、それ。」 視線に気付いた青の、気遣いの言葉への返答もどこへやら。 辛子色のオリエンタルな雰囲気の中に、ラクダが一匹。 「見た事ない。美味しいん、それ?」 「あぁ。まあな。」 青は思い出す。高校時代、洋楽にやたら詳しい奴が居た。そいつの貸して くれたCDに、このデザインをそのまま真似たジャケのものがあった。その、 音に惹かれた。PCで焼き、擦りきれる程に聴き、聴き続けた。 「一本、くれへん?」 「アホか。未成年のくせに。」 「ショウ兄ぃかて、やんか。」 図星。 「キツいぞこれ。癖あるし。」 まず一本を自分に、次の一本をリュウの口に運ぼうとすれば、無造作に さっとそれを、奪い取るように、そうしてそぉ、と口に咥える。涙に赤く、 腫れた目蓋を、それでもまだ隠そうと、帽子のつばをぐいと下ろす。 「あんまり急に吸い込むな。」 火は、リュウの方を先に。 反応は予想通り、あまりに予想通り過ぎて、余計に青は可笑しくなる。 「何これ、まずぅ!」 ひとしきりむせかえった後の、捨て台詞。 はは、と、笑いながら、青は波に目を投じ、くゆらせる、美味そうに、こころから。 「無理すんな。捨ててええで。」 満潮が間近いのだろう、波が近づいて来る。目に見えて、まるで、音をたてる ように。 「あぁ、ちょっと待て。」 クルマのドアを開けると、途端に詰め込まれた熱気が溢れ出す。半身を 狭苦しそうに入れ込んで、ダッシュボード辺りより何やら取り出せば、ただ それだけで汗が吹き出る。 「手ぇ、出せ。」 何のことかと不審気に、出されたマメだらけの掌は、いつの間にこんなに大きく なったのだろう。 かたかたと、その上に二度振れば、ちいさな白い錠剤がみっつ、掌のうえ。 「眠気飛ばしやけどな。ばれたらヤバいやろ。」 フリスクくらい知ってるわと、口にみっつを一気に放り込めば、ひろがるペパー・ ミントの強い、強い刺激。 「あ、そや。」 今度鞄のなかをごそごそするのは、リュウの方。取り出されたケイタイはオフ・ ホワイトに、ちいさなストラップがひとつ揺れる。 「あのな……メアド、交換、ええ?」 「おう。」 まるでその髪に合わせたかの、ストン・ウォッシュに色を抜かれた、錆色に黒い ミリタリー・タイプのボトムスの、バック・ポケットからすいと、抜き出されたそれは、 マットに黒く、飾り気のひとつもない。二人ともの、慣れた手付きに、素早い操作。 「メール、あかん時間とかある?」 思わず吹き出しそうになる。 「なんでや、ガキやあるまいし。夜中でも送ってこいや、いくらでも。」 リュウの家の夕食時間は、父親の仕事に大きく左右される。急いで戻れば 運の良く、今日は帰宅もまだに、母親に促されて、軽くシャワーを浴びる時間も 取れた。粘りつく汗を、涙を、冷たいと感じる程の温度に下げたシャワーに 流し去って、着替えを済ませ、ベッドに仰向けに身を投げる。 家族揃っての食事が苦痛になったのは、いつの頃からだろう。欄間の彫りの 見事な広い日本間の、一本幹の、大机。上座にひとり座る父、その次の座には 上の兄。そうして、祖父。次に、今は都心に悠々自適の一人暮らしの、次兄。 後に祖母。それから、これもまた今は居ない、次兄より年上の姉、その後に、 自分。いつも、末席が、母。今はその座を、義姉に譲る。 母が、落ち着き座って食事をするのを、リュウは見た事がない。いつも皆の、 世話に席を立ち、席を立ち、その繰り返し。 長兄、姉、次兄は、それぞれに三歳の年を間に置く。今は22歳になっている 姉に、リュウの想いは流れてゆく。 家の全てを長兄に継がせる事の、それはこの世に、この家に、生を受けた 時より決定した、神の定めにも等しく、そうであればこそ、次兄には、あらゆる 意味でその分をと、これもまた生まれた時よりの決め事。高校を卒業後、 修業に入る長兄を尻目に、次兄は都心の贅沢な、マンションに一人住まいの 大学生活。そのしわ寄せは全て姉に。 自宅通学範囲内の、国立大学以外の選択肢など、なくて当然と、浪人などは 云うに及ばず。家族の誰よりも成績のよい姉であっても、家事と試験勉強の両立は 容易にある訳もなく、受からなければ当然と、家事手伝いに甘んじさせられるのを、 どうしてもと、父親に、母と共に頭を下げて就職に出た。 そこで男と知り合った。 目の辺りに青痣を、母がよくつくっているのを、幼いリュウは何かの病気に 違いないと、幼心に胸を痛め、ついには、おかあちゃん、病院で調べてもろたら、 と、実際口にも出したりもした。 その同じ痣を、姉が顔に乗せ、目を赤く、黒光りのする廊下を走りゆくのに、 その日偶然、すれ違った。 その頃にはその意味も、厭と云うほど知っていた。実際に父が母に、ふたり の兄に、そうするのを、目の当たりにもした。 だが姉には。 心配のこころがそうさせた。離れに母を相手に、嗚咽を交えて話す姉の言葉は、 立ち、盗み聞くには、ひどく聞き取りづらくはあったけれども、優しくおとなしい相手が 時に途端に手を上げると、お腹の子供がと、それだけが聞き取れた。 直後に姉は家を出た。母につくられた痣はひどく、眼帯にも隠す事は出来なかった。 どこでどうしているのか、母だけは知るのか、それすらも分からずに、誰にも 訊けずに時ばかりが流れたけれども、ついこの間、母が、もうお前にも分かるねと 話してくれた、遠く寒い、けれども美しい土地に、ひとり、子供を産み、母子ともに 元気に居ると。子供は女の子だと。 こん、と、自室のドアをノックする音に、我に返る。 「隆生(たかみ)ちゃん? ご飯の用意、出来たよ。」 ドアの向こうに、くぐもった声。 「あ、はい。」 ベッドから飛び起き、ドアを開ける。階段を今下りようとする、義姉の背中が見えた。 「あの、お義姉さん。」 「うん?」 振り返る義姉にも、同じ、痣、薄くは、あるけれども。 「あの……ごめんなさい。」 「え? 何が?」 本当に分からないのだ。義姉はただ、優しく微笑む。 「早う下りておいでね。冷めるよ。」 信じられない、信じられない。あの、誰より優しい上(うえ)兄ぃが。 箸につまみとられる青虫をさえ、可哀想だと声を落とす上兄ぃが。 幼い私がまとわりついても、邪険になど一度もすることなく、あぁお前は本当に 可愛いと、お前はお前の好きに生きればいいよと、いつも、何をする時も、リトル リーグに入る時も、後押しを惜しまないでいてくれた。 あの上兄ぃが。 食事の後、随分経って、明日は朝練に早いからと、寝支度を始めてから、 いつものようにケイタイを取り出した。着信5件、友達から。返信し、また着信する。 繰り返し、繰り返して時間が過ぎ、ようやく『おやすみ〜』を合図に、儀式の終わり。 新しいメアド。 ふう、と胸の奥に、深く呼吸を一度、二度、慣れた手付きに、それでも何度かを 打ち直し、そうして送信。 20秒と経たぬ内に着信を知らせる光が点滅した。 『初タバコ、利いたやろ?(ニコニコマーク)』 “……アホ。” オフホワイトに光るケイタイを、それから我が半身を、ベッドにぶわ、と投げた。 路線バスなら40分はかけて運行する、なだらかな丘陵越えの、急行停車駅への 道は、がらがらに空いて、15分もあれば駅前の、こんな処にまで進出する、 コンビニに到着する。そのすぐ傍には、凉子を連れ入った寿司屋の暖簾が、 さわとなびく。高校入学の祝いに、家族一緒に、初めて連れてもらった、店。今の 仮住まいは、もうそこからは、歩ける距離に。 がさがさと、冷えた麦茶と共に流し込む夕食を終え、シャワーを浴びて、ソファに どうと座り込めば、自然煙草の箱に手が伸びる。ゆれる紫煙につつまれて、青は 思い出す、あれも、これも。 青は本当の名を青次(しょうじ)と云う。その名の示す通りに、二歳離れた兄が 居た。 それは不慮の、不幸なとより言い様の、ない事故であっただろう。遊び盛りの 男兄弟が二人では、その内すぐに手狭にもなろうと、父親の、膨大なる蔵書の 一部を処分するつもりの、山と積まれたそれらが雪崩となった。古書店店主の、 到着する、ほんの一時間ほどの間の、出来事であったと云う。 父親は都会の弁護士事務所にて10年間を、修業と資金捻出に充て、昔ふと訪れて 惚れ込んだというこの土地に、母と共に移り住み、駅の近くに事務所を、浜の見える 場所に自宅を構えた。弁護士としての仕事量の、多くは、ある訳も、また望んでいた 訳もなく、生活は潤沢と云う程にはなくとも、夢叶えた日々は充実に満ち足りていた。 青の兄を圧死させた蔵書には、司法関係の専門書は殆どになかったのだ けれども、愛らしい盛りの、まだ幼稚園にも上がらぬ最愛の、息子を突然に 奪い取られた母親に、そのような理屈の通じる筈もなく、母親はただ弁護士という 職業を嫌悪した。職業のみを嫌悪して、夫婦の仲は変わりもない。そうしてその 嫌悪の分を、青への溺愛にとすり替えた。 幼子の間はそれも良い。しかし、小学校に上がって尚、その帰宅のほんの 半時も遅いとなれば、気狂いのように振る舞う姿に、幸いにしてクルマで送り迎え をすれば、30分と時間を要さぬ場所に、リトルリーグの存在を見いだせば、父親は 迷うことなく息子をそれに加入させ、つまりは盲愛よりの避難をさせた。 父親は、自身、幼少時より六大学へと、野球に身を染めた経験を持った。 青のまだ、ずいぶんちいさな頃より、よくキャッチボールをして遊んだ。血の故 もあるだろう、青はリトルリーグに於いて非凡な活躍を見せ、それは母親の安堵 へともつながりを見せた。 それでも父の、息子への、弁護士の道への思いは消しがたい。幸いにして 成績も、それを望める位置にいた青を、中学に上がるや否や、リトルリーグを 卒業するや否や、次には受験勉強の中に身を置かせた。遠くの塾に通わせる 時間の惜しさに、何人もの、熟練の塾教師を家庭教師に雇い入れた。それは 地元の県立高校で充分だという、気持ちを押し殺しての決断であった。母親の、 温かに過ぎる懐より、巣立たたせる為の、理由づけでもあった。 青の成績は三年間に、父の要望以上の進歩を見せ、全国有数の、いや 恐らくは全国トップの進学成績を、誇る私立男子高校に合格、入学した。 それが青の人生を変えた。 学校より徒歩数分の場所、LDKタイプのワンルーム・マンションに青は 一人暮らしを始める。全国より生徒の集まるこの高校周辺には、こうした マンションが少なからず、つまりは仲間にも事欠かなかった。 世間一般には有名大学進学より念頭にない、受験地獄の申し子と、その ようにより認識されていない高校の、中身は実際に入学してみれば、確かに そのような人間も、何割かは存在するものの、一方に、おかしな奴とより 言い様のない者達がまた、少なからずに居た。 TV番組に、小学生がルービック・キューブを、10数秒で全面クリアすると 見れば、自分は必ず10秒を切ると、まるで100m走の世界大会のような 事を云ってそれに没頭、願い叶わぬままに腱鞘炎を患い、ペンを持てずに あやうく留年しかける者。 自宅が開業医なのを良い事に、頭痛だ発熱だ膀胱炎だと、様々な薬を用立てて、 それらを自己分析してみては、どのようにラリれるか、自分の身体で試して とうとう救急車のお世話になる者。 音楽に没頭するあまり、プレイヤーのイヤホンを、片時も、授業中でさえも 決して外さない、それを発見した教師がまた、無類の音楽マニアで、話が合い、 合いすぎて、二人して仲良く校長室に呼び出しをくらう者。 そう、これが例のCDを貸してくれた奴。 授業内容は濃く高度に、興味を引かれ面白いものと、そうでないものとに 明らかな差を生じた。そのどちらもを青はこなし、成績を中の上に留めた。 日曜日毎の、母親の来訪。片道を優に3時間半以上、それを母たる女はもの ともしない。週休二日など、ただの建前、土曜日には集中講座が開かれる。 勉強の障りにもなると、そう正直に伝えても、無償の、盲目の愛情に勝てる ものなど何もない。 「貴方は弁護士なんかにならんでいいんやから。普通に大学に行って、 普通に生きていてくれたら。お母さんは、それだけが幸せなんやから。」 それが口癖だった。 高校は閑静な住宅地に、上に山、下に海を抱く豊かな自然の中に在った。 それでも私鉄に15分も揺られれば、ちょっとした繁華街に出る。この繁華街が とりわけ青のこころを掴んだ。 この街の、それはひとつの特徴でもあったのだろう、いわゆる上流と、下町の 混在する場所。上辺に着飾った有閑マダムが横行し、高架下には宿もない、 その日暮らしの、たむろする。 試験終わりに、級友と繰り出したのが始まり。当初は母親より逃れる場所を、 同じように一人暮らしをする友人の部屋に求めた青の、仕舞いには、其処が 自部屋代わりとなった。 高架下には、そんな場所が在った。高校の名を告げ学章を見せれば、一年に 何人かは、そんな人間が居ると、まるで当たり前のように受け入れる、場所。 酒を奢り、飲み方を教えてくれる人間が居た。マジック・マッシュルーム、 スピードに始まり、さまざまの、麻薬にさえも手を染めた。 次第、学校からは足が遠のき始める。 16歳、高校一年最後の春休みに、数日間の帰宅、それが最後となった。 懐かしさに、家に居る煩わしさに、リトルリーグの試合に足を運んだ。セカンド2番と して先発する少女の、俊敏に切れのよいプレイに、すぐに目を惹かれた。それが アキの妹、隆生ことリュウだと、少女がチーム・メイトに観客に、その名を歓呼される のを聞き、始めて、知り、納得した。 リュウは試合後、青に向かい、帽子を取って一礼した。 高校二年の終わりに、未履修過多に因る留年を知らせる封書が、青の実家 に届く。それまでは母親の、懇願にまともな耳を貸さなかった父が、初めて青の、 一人暮らしのマンションに訪れた。そこに、青の姿はもう、なかった。 法律に、司法に、青は興味があった。父親の職業に、誇りを持つと云った美談 などではない。それがまるであの繁華街のように、裏表のあるものだと、知って、 より興味の糸をひいた。嫌がる母親より隠れ忍んでの、平易な文に書かれた 参考書類の熟読は実に、小学生の頃より始まっていた。高校時代には六法全書を、 愛読さえしていた、まるで小説を読むように、寝物語のように。 そんな青に、高架下に、声をかける人間が居た。 父親は、学校に、除籍を避けるべく退学届けを提出し、仲の良いと云う 級友のひとりに、書を託した。それを青が読んだのは、一ヶ月ほど後の事だった。 『貴方の母親であった女性は、心痛に、心労に、現在病院内に内臓摘出の 手術待ちの段階にあります。その後も生涯を、病院と自宅を行き来する事と なるでしょう。 私達夫婦は、この先、桐籐青次という人間が、元より居なかったものとして 生きてゆきます。貴方は貴方の生き方を生きて下さい。』 理性に勝ち、常に沈着冷静に、それでいて、愛情の希薄さを、常に感じさせず にいた父。 予想に、たいして違わぬ内容は、青にほんの少しの驚きと、衝撃をのみ もたらしたに過ぎなかった。母への心配は、自責の念は、当然に大きく、大きくに あった。ただ、術を、持たなかった。 涙がにじみ溢れて、すぅと流れた。 ぴぴ、と聞き慣れた電子音に我に返る。 無造作に、根元まで灰となった煙草を灰皿に、ぎゅ、と押しつけ、立ち上がり、 無表情にFAXを取り出せば、予想通りに、それは事務所よりの、次の調査 要請であった。最後の、“勉学怠るべからず”の文字には、流石に失笑を拭え ない。 大きな傘のひとつである大手建設による、リゾートマンション建設計画の下調べ。 それが目下の、自分に与えられた仕事のひとつであった。これにさしたる支障を 見なければ、県市町村との談合へと、事は運ばれてゆくという寸法。 もうひとつ自分に課せられた仕事、それがこの2年、最長でも3年の期間に、 一次は既に合格を見ている、司法試験二次試験に合格、規定の修習の後に バッジを取得し、組付きの、弁護士となる事であった。 その為に、飼われていると表現して、何の過言もない。 青はFAX用紙を手に、六法全書の待つ、書斎兼寝室へと向かう。その時、ケイタイ が着信を知らせた。 『ショウ兄ぃ、今日は色々ありがと。ごめん。』 一瞬にして、もうひとつの現実が色を露わとした。 ふふ、と、子供のような、いや、それこそが、19歳の男性に、見合っているであろう、 悪戯っぽい笑みを浮かべて、リズミカルにキィを打つ。 送信。 盆が過ぎ、夏休みの終わりももうすぐそこに、朝の夕の、吹く風に心地よさを 感じられる頃。 まだ夕刻には早い、そんな時刻にメールを着信した。 『ショウ兄ぃ、今日、時間とれる?』 リュウのタイミングは、いつも、呆れるばかりに絶妙だ。 『出来たら、ショウ兄ぃのとこに、寄せてもらいたいねんけど。』 前にクルマで出会った処で待てと、送信した。 「へぇ、きれいにしてんねんやん。次兄ぃなんかとえらい違いや。」 いかなチェーン・スモーカーと云えども、目に痛いかの真白いクロスを、目に 見えて着色させるのには、二ヶ月足らずという時間は短くに過ぎる。 「借りもんやからな、家具も全部。」 あらかじめエアコンを、オンにして迎えに出た恩恵に、部屋は適温に湿度もない。 リュウにソファを促して、自分は対面式の台所に。ざっと手を流水に当て、 冷蔵庫を開ける。 「あぁ、ジンジャー・エールしかないわ。せやから言うたやろ、コンビニ寄ろ、て。」 「ジンジャー・エール、好きやで、オレ。」 ちら、と、リュウに目線を遣れば、落ち着かな気に、そおろりとソファに腰を下ろし、 あちらこちらと、見回している。 「氷は?」 「うん。」 からから、と氷の、おと。 「ショウ兄ぃかて、Tシャツ着るんや。」 「家に居(お)る時はな。タバコ入れる用ないから。」 そう話す、リュウはと云えば、相変わらず、飾り気のないタンクトップの重ね着。 今日は、ローズグレイと、白の組み合わせが、こちらもまた、相変わらずのラフな ショートパンツの、明るめの迷彩色に、よく映える。 「えっと、ショウ兄ぃ。今日は泣かへんから、安心して。」 少し間をおいた隣に、とす、と座り込んだ青は、大きめのグラスに注がれた、 ジンジャー・エールの半分ほどをも一気に飲む。 「おう。助かるわ。」 お互いに、顔を見合わせて、微笑み合う。 「あのな、オレ、野球、やめる事にした。」 手に持つグラスから一口エールを飲んで、微笑みながら。 「どうせな、ほら、受験やろ。」 そうか、とより、かけてやる言葉もない。 「あのな。」 手に持つ、汗をかくグラスを、揺らせてからからと、音をたてる。 「ショウ兄ぃに逢うたやろ、鎮守さんの杜で。」 「おう。」 「あん時な、オレ、はじめて、月のもん、来たん。」 ガラステーブルに置かれたグラスを、乱雑な手付きに取り上げて、ぐいと また喉に流し込む。何を言い出す、こいつ。グラスを置く手も自然、粗野に。 「家でな、おばあちゃんに、あんた、その間は穢れてるから、鎮守さんに 行ったらあかんよ、言われた。なんやねんそれ、て。それで、終わってから、 鎮守さんに訊きに行った、オレ、穢れてるんか、って。 ……そしたら、ショウ兄ぃに逢うた。」 落とした視線のままに、複雑な色に微笑み、また、からからと音をたてる。 グラスより、氷の汗の水滴が、ぽたりと、露わになったリュウの膝元に落ちる。 冷たいだろうに、何も言わない、拭き取りも、しない。 「ショウ兄ぃ、知ってる?」 声音は相変わらずに、恐ろしい程の澄んだ落ち着き。 「叩かれて育ったり、母親が父親に叩かれるのん、見て育った男は、大きなったら 自分の恋人や奥さんを、叩くんやて。女は、そんな男を、恋人や旦那さんに選ぶん やて。」 「……あぁ。」 暴力の、刷り込みとか、連鎖、ってヤツだ。ユング派の心理学、精神医学に傾倒 していた同級生が、そんな話を良くしていたがと、青は思い出し、そうして、次の 一瞬に、こころの底に、ぞっとした。 ……あり得る、リュウの父親は、典型的な、昔気質の職人だ。 横手に、真顔にみつめる先のリュウの顔は、ほんの少し微笑んで、グラスをかたりと テーブルに置き、そうしてひとつ、ふうと肩をさえ揺らすような、大きな深呼吸を してみせる。 「で、ここからが本日のメインテーマ。実はリュウ、ショウ兄ぃに一生に一度の お願いがあります。」 「なんや。人生、平均寿命からしたら、六分の一ほどしか生きてないのに、もう、 一度のお願い、使(つこ)てしまうんか。」 「うん。ひとりでは、出来へんことやし。」 そう言いながら、がさごそと、ショートパンツのポケットより、握りしめ取り出したものを、 ぱっと手のひらをひろげてみせれば、それは、可愛いピンク色のビニールにくるまれた、 男性着用の、避妊用具。 「……何の真似や。」 トーンが下がる。自分でも疎ましいほどに。 「最初で最後、オレの人生で一回きり。」 反してこちらは、淡々と、微笑みさえ浮かべ。 テーブルの上の、煙草の箱と、その横の、ライターに手を伸ばす。ずっと前屈みに 居た背中を、どんとソファの背もたれに、まるで叩きつけるように、カチ、と咥えた 煙草に火を点ければそのままの姿勢に、箱とライターをテーブルに放り投げ、 そうして紫煙を、吐き出す、二度、三度、四度。 なんでや、と訊きたい項目など、数え上げればきりがない。分かってんのかと、 問い正したい事もまた同様に。けれども、それらの全てに勝る、リュウの思いの、 強い思いの、逃れたいと、逃れたいと、後など知らぬ、ただ今を逃れて、そうすれば 一歩を踏み出せると、それは破裂寸前の、すれすれの、一触即発の。 ああ、あれもこれもが、一本の、線とつながり、腑に落ちる。 それゆえに、頭の理解を超え、女と、男の、性差を超え、青の身に、それは じわりじわりと攻め入って、奥底へ、奥底へと滲み入り、鈍痛のように、差し込む ように、痛みばかりをもたらした。容赦もなくにもたらした。 ようやくの事、横を見れば、リュウは身じろぎもせず、ただ、じっとそこに居る。 前屈みに、テーブルの上の灰皿に煙草の吸い殻を押しつけて、起こし様に、 身体をひねりリュウに覆い被さる恰好に、そのまま、すうと抱きしめる。 今までに抱いた、どんな女とも異にする、細い、筋肉質の、身体。胸に、かすかに 隆起する、やわらかさ。肩に、腰に手を這わせても、微動だにせず、ただ、伝わり 来る鼓動だけを大きくに、目を閉じている。 こんなにも、こんなにも、いとおしいとは。 これではどうしようもない、どうしようも。 温かい身体を抱きしめながら、青は、リュウの、胸と肩の合間に、その顔をうずめ、 ただ、そのままに。じっと、そのままに。 「……ショウ兄ぃ?」 「すまん……ごめん、リュウ……ごめん……。」 から、と、グラスのなかの氷が溶け、おとを立てた。 青は鎮守の杜に、祠を背に、腰を下ろし一望の、景色を眺めその時を待っていた。 ようやくに、薄く真珠色に流す、青みを帯びた空一面の、丁度真正面に当たる、 東の緑深い丘陵の、縁を取るように、退紅(あらぞめ)の色に染まり始めたかと 思えば、一瞬に、光眩い金色の、一線の現れて、そうして朝の陽の、光の珠の 顔を見せた途端には、下に茫洋たる、白く泡立つ波はゆるやかな、美事な曲線を 描き、その線を、遥かにまで延ばす海の色までもを、同じ色に染め上げる。 初めてこれを見たのは、いつの頃だったか。父親に連れられて、まだ小学校に 上がってもいなかっただろう。それでも、その美しさは、ただ、心に染みついた。 その、朝陽の昇り来る、正にその場所に、リゾートマンションが建つ。 煙草を咥え、火を点けようとして、ふと、その手を止めた。静かに、一本を、 ボトムスの前ポケットに押し込んで、まるでその代わりのように、バック・ポケット よりケイタイを取り出す。 『今日、帰る。』 こんな早朝、返信の期待など、まるでなかった。にもかかわらず、1分程経っての、 着信。 『最後の試合やねん、今日。見送り、行けへんから。』 ふ、と微笑んで、かちゃ、とケイタイを折る。 そうして、立ち上がる。 去り際に、祠を、振り返り、見れば、眩い朝陽を満面に受け、あの、古く朽ち果て ゆきそうな、それとは見間違(ご)うばかりの。 背に、聞こえる、潮の、おと。 ユニフォーム姿に、試合場へと自転車を、急がせるリュウの目に、ふと、道路際の 自販機の、あの銘柄の煙草が飛び込んだ。自転車を停め、ほんの2,3秒。 “バイバイ、ショウ兄ぃ。また、逢おうな。” 寂しげに微笑んで、そうしてそれから、もう一度ペダルをこぎ始める、 来る秋の、匂いの濃く、涼やかな風を受け、力強く、ちからづよく。 |
-end-
-back ground music- Wishbone Ash "Argus" Simple Minds "Sparkle in the Rain" |