作品『この森に虎は居るの』あとがき



物語を書く、という行為から、二年程は離れていたでしょうか、そ の復帰作第一弾という事になります。

発端は、私にはとても多いパターン、夢を見たから、でした。

コンパートメントの窓に、外をみつめ続ける男女の後ろ姿。たった それだけの夢でした。ラオという名前も、目を醒ました時にはもう 思いついていたものです。

私は動物が、特に大きな肉食ほ乳類が好きなのですが、なかでも虎 は、世に美しい生物の、個人的トップクラスに入る動物です。

虎の赤ちゃんはTVで見る以外は想像ですが、ライオンの赤ちゃんは 抱いた事があります。とある動物園のイヴェントでした。赤ちゃん はずっしりと重く、温かく、やわらかくてがっしりして、ものすご く足が太く、肉球は湿り、目はほんのり青みをおびて、こちらの鼻 を頭につけるとミルクの香りがしました。 私は有頂天です。でもライオンの赤ちゃんはどんなに厭だったでしょ う。その母ライオンも。そんな経験も、元になっています。

場所も時代も設定なし。好い加減な事この上ありません。 ただ、虎の生息地、寒い夏、クーデター勃発、横断鉄道。そこから 苦もなくロシアを想像された方も多いと思います。実際それをモデ ルにはしました。

コンパートメントというのは、乗った事があるのですが、一種独特 の空間です。カタン、コトトンと線路を走る音ばかりが響く個部屋。 そこに他人が、男女が、それぞれに違うものを背負った男女が居を 共にする。そこに心理の、うごめきのない筈がないと思うのです。

その辺りが全く上手く表現しきれていないのが歯痒いばかりです。

この物語で一番気に入っているものがあるとすれば、それは題名で す。

この物語のエンディングは、如何様にも取れると思います。敢えて そうしたつもりです。

それにしても私はどうも女性を描けない。ので、少女に逃げる。そ の癖が、早くも始まっているのに、なんだか苦笑してしまいます。





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