外伝4・半神―this mortal coil―


 
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 秋の立つ日はもう直ぐ其処に、指折り数える間近に在った。それでも熱
く湿る鉛のような大気には相も変わらず容赦がない。蝉の時雨は喧(かま
びすか)しく遠近の感覚をさえ狂わせた。庭と部屋とを隔てる硝子戸を彼
は開け放ち其処に凭れて半身を外気に晒して居た。それでも頭が一向に機
能する気配を見せないので彼は書物を諦め閉じ置いた。その時気が付いた、
腕に次から次へと浮かぶ汗の水玉をまるで仕掛けの有るものの様に眺めて
居た。

 唯彼の部屋のみを他処に、広い屋敷は二つの事柄に揺れて居た。片方に
母親が臨月を迎えて居た。今日明日にも産声が聞こえる心積もりに誰もが
余念を持た無かった。また片方には目前に控えた初冠(ういかむり)の儀
の準備が有った。其れは此の国の名門の家柄に古来より伝わる儀式の一つ
であった。一族の長子が十二の歳を迎える日に執り行われ、家の永遠の弥
栄(いやさか)の祈願と共に、主には一族の次代の長(ちょう)を世に披
露目せしめる意味を持った。それ故金枝玉葉を筆頭に一族なればその末裔
までもが列席の欄に名を連ねる、家を上げての一大儀式と成るのを常とし
た。冷静沈着を持って鳴る父親の怒号が時折響くのもこうした由の元に在
れば納得の行く事であった。

 彼はそのどちらにも大した感慨を持たなかった。血の繋がる従弟妹なら
もう幾らも居た。今更直系の弟妹の一人出来る事に何程の意味が在ろう。
翻り初冠の儀の方には多少気の重くなる感の無いと言えば嘘に成った。綺
羅の七重の錦織を羽織り罅の入る程古びた黒漆の烏帽子を頂く姿を、百を
越す下卑た興味と羨望の眼(まなこ)に晒さねば成らぬ。だがこれも彼に
は元より承知の行事であった。この世に生を受けた瞬間から、否、それよ
りずっと以前より彼の前には道が出来上がって居た。一族の何十何百の手
に積み練り込まれ磨き上げられて来た燦然と輝く真一文字の道。然し彼の
眸にはそれがまるでぬらぬらと隠微な光を放つ蛇腹より外に映らなかった。
生まれ落ちた時彼はその足で蛇腹の鱗の様な節をひとつ踏み据えた。その
後は帝王学にも似た教育を、節を進む意義と方法として徹底的に仕込まれ
て来た。初冠の儀もその順序の一つに過ぎ無かった。次には十五歳に課せ
られる司政官試験と云う節が待つ。彼は膝元に置いた書物を汗に湿る手に
拾い上げた。


 初冠の儀は滞り無く厳かに催され無事終宴を迎えた。その数時間後、日
付の未だ変わらぬ夜半(よわ)に母親は此方も無事に男児の誕生を見た。
この知らせは儀式を終え心身の疲労に眠る事の出来ずに居た彼の耳にも直
に届いた。十二年を巡り同月同日に生まれた弟。その奇妙な事実が彼に一
筋の興味の糸を引いた。疲れを他処に彼は身を起こし正装の後に暗い廊下
に歩みを進めた。

 母親は床のなかに、三人程の従女に汗を拭かれたり髪を撫でつけられた
りして居た。父親の姿は見えなかった。
「母上。此の度は誠におめでとう御座居ます。」
「ありがとう。貴方も今日は真に御立派でしたね。」
生死を賭した大事を成し遂げた消耗に窶れながらも、満面に慈愛の情を湛
えて母親は言った。
「貴方の弟は次の間に居ります。どうぞ御会いになって下さい。」
次の間への扉を開ける以前より激しい泣き声は漏れ聞こえて居た。扉を開
けるとそれは予想を遙かに越えた大きさに彼の耳を貫いた。従女や乳母の
間を波を切る様に彼は声の元へと歩み寄った。
 赤子はその名の通りの生き物であった。なま赤くぶよぶよとして甚だ不
安定な印象を与えた。その生き物が持つ血と肉の、在らん限りの力を尽く
して彼の弟は泣き叫んで居た。円く柔らかいちいさな拳を握り締め泣き叫
んで居た。周りの大人達に目を遣ると、女達は一様に先程の母親と同じ微
笑を浮かべて居た。堪え切れぬ奥底からの本性の慈愛を露わに微笑んで居た。

 「元気の良い弟君でございますこと。」
乳母の此の一言に返す言葉を彼は持た無かった。赤子はまるで此の世の苦
しみを、悲しみを一身に背負って居るかのように泣き叫んで居た。それを
全ての大人達が祝福の微笑で迎えて居た。彼は無言のまま一礼をしてその
場を後にした。


 翌日彼は終日を床の中で過ごした。軽度の熱気に吐気、其れに目暈を訴
えた。次の間に医術師の昨日の過度の緊張に因るものだろうと彼の乳母に
説明する声が聞こえた。だが彼は理由が其れに無い事を知って居た。

 彼は数ヶ月前の叔父の葬儀を思い起こして居た。叔父は可成りの早世で
あった。自分より幼い童子を数人も残して居た。一族の中でも下位に属し、
生来の病弱に大した業績を残しもしない叔父であったが葬儀には想像を越
えた人数の参列を見た。男でさえも滂沱に悲しみを表す事を憚らなかった。
此処に啜り泣きの漏れ聞こえぬ場所は無かった。叔父は寛恕の人であった。
彼に対しても全くその通りの人であった。それ故人前に於いては如何なる感
情も露にせぬ様徹底した教育を受けた彼をしても胸を切る痛烈な寂寞の思い
を禁じる訳には行か無かった。

 白装束に身を包み横たわる叔父に最後の別れをすべく近付き膝を落とし
た彼は思わず、あ、と心の中で小さく呻き声を上げた。元より叔父は穏や
かな表情の人であった。だが此の面持ちは全ての言葉を超越して居た。今
叔父はあらゆる苦悩より解放された確かな至福の時に居た。叔父は補陀落
(ふだらく)に居た。そうでなければ為し得ない微笑が叔父を包んで居た。
一方に人々は悲しみに涙を流し続けて居た。聞こえるのは唯悲嘆の声音ばか
りであった。

 初冠の儀を境の数ヶ月の間に起きた、此れ等の生死に関する二つの出来
事に彼は冥眩した。彼の自覚した以上の深淵に其れ等は野羽玉(ぬばたま)
の刻印を彫った。


 日は満ち、其の時が訪れた。遠く奥の方より女の悲鳴が轟いた。書物よ
り目を上げた彼は静かに其れを閉じ、正座をして報告を待った。
 従女の一人が母親の部屋の扉を開け彼を招き入れた。母親は狂乱の中に
居た。父親は少し離れた処に立って居た。茫然と威厳、決然と畏怖の交錯
を彼は其の表情の中に見た。然し駆け付けた彼を認めると父親は変わらぬ
低く静かな声調で一言を放った。
 「忌み子だ。」

 其の言葉は彼の頭に暗たる意味合いの、唯の一つも齎さ無かった。誰も
寄り付かぬ絹の揺篭のなかを彼は静かに覗き込んだ。
 赤子は大きな目を開けて初めて映る世界を不思議そうに眺めて居た。白
目を覆い尽くす程に大きな銀色の眸が其の度に上下左右に揺れた。辺りの
明暗を正確に察知する真黒い瞳孔は其の銀色のなかで大小を繰り返して居
た。

 「何故だ……何故この名門の血に……。」
父親の漏らした呟きに此の広い屋敷の王が最早父親に無い事を彼は認識し
た。其の瞬間憐憫の感覚が彼の心の隅を瘋っと吹き抜けた。
「処分する。良いな。」
元より母親は応答出来る状態に居無かった。
今一度彼は其の、黒くなければならなかった眸を見た。恰(あたか)も狼
の仔のようだと彼は思った。
「父上。処分なさるのなら此の忌み子、私(わたくし)に戴けませんか。」
物凄い形相に父親は彼を見た。それは真に憎悪の塊であった。
「御前が育てるとでも云うのか。」
「育つかどうかは分かりません。何せ忌み子ですから。」
父親は慄然とした。銀の眸の化物に畏怖の片鱗も見せず微笑さえ薄く浮か
べる我が子を、頼もしいと思う以前に慄然とした。
「……共に修羅道に墜ちる積りか。」
玉座より滑り墜ちたのは己だと父親の声は自ら語って居た。彼はくすりと
笑いの漏らすのを禁じ得無かった。
「……それも一興。」
権力とは其れを持つ者程其れに脅える。初冠の儀を済ませて居た事が彼に
味方した。例え名目の上にしろ次代の長たる彼に楯突く等今此の父親に可
能な筈の無い事であった。
「……好きにするが良い。だが己の身分、努々(ゆめゆめ)忘れるな。」
彼は恭しく一礼をした。
「承知致して居ります。」

 もう一度彼は揺篭のなかの弟を見た。刀剣に兆す光の様な眸だと今度は
思った。此の類い希な眸の生き物の、忌み子の烙印を押された者の命が我
が手中に在る。不図彼は己が神にも魔王にも成れる気がした。一方で其れ
が如何に空虚より外に齎さないかも彼は識って居た。
 「“修羅道に墜ちる”……か。」
彼は独り嘲笑した。そんなものが在るなら己は疾うに其処に居た。
此の弟を彼は修羅と呼ぶ事にした。


 「気味が悪いですか。出来無ければそう言って下さい。」
彼は自分の乳母に言った。此の国の名家の子弟は皆母親では無く乳母の手
に育てられ躾られる。其の間柄は子供が独り立ちをする日まで続くのが常
であった。黒い眸を持たずに生まれ忌み子の烙印を押された弟の育成を、
彼は自分の乳母に頼むより外に方を持た無かった。
「確かに気味の悪く無くはありません。」
乳母は揺篭のなかの赤子をじっと見詰めて居た。
「それでも赤子に違いは無いのですから私に世話の出来無い事も無いでしょう。」
「では御願いして宜しいのですね。」
「御引き受けする前に貴方様に御訊ねしたく思う事がございます。」
「何なりと。」
「何故なのですか。」

乳母の問いは単刀直入であった。彼は少時目線を下げたり頭を天に仰いだり
して居たが終いにはこう答えた。
「其れが自分にも能く理解ら無いので困って居ます。」
其の彼の仕草と返答に乳母は軽く微笑んだ。乳母は大変に厳格な女であっ
た。微笑さえ殆ど見せる事が無かった。それだけに一層の安心感を、其れ
は人に与える働きを持った。
「貴方様らしいですこと。では承諾致しましょう。」
「助かります。早速ですが此の弟には私にして下さった様な教育は一切要
としません。唯人間として最低限の躾と読み書きの徹底だけを御願いした
いと思います。貴女の手に余る場合は私付の従者を自由に使って頂いて結
構です。但し。」
彼は未だ童子の高い声音を低くに言った。
「迷い事の際には決断の前に必ず私の判断を仰いで下さい。」
「全て承知致しました。」


 こうして其の日より修羅は彼と其の乳母の手に全身を委ねられる事と成っ
た。其れにしても、と彼は考える。本当に何故あの時自分は大した考えも
持たずあの様な事を口走ったのであろう。慈愛や憐れみ等と云う感情の元
より欠片も無かった。父親の凋落をあれ以上嬲る程羞恥の無い訳でも無か
った。在るとすれば“忌み子”なる者への好奇、十二年を巡り同月同日に
生を成した忌み子なる弟の行く末への好奇、唯其れだけであった。第一に
眸の色の黒で無いばかりが忌み事と成る、其れが彼の頭にはどうにも謎で
あった。其の謎を覗き解明する緒を得たいと云う願望も今となれば起こって
来た。要するに忌み子修羅は彼の手中に落ちた実験動物であった。


 修羅は能く泣き能く乳を飲み普通の赤子に少しも変わる事が無かった。
或る日乳母が彼の元に言った。
「修羅様もどうやら左利きの様です。如何致しましょう。」
「矯正は不要です。どうぞ其のままに置いて下さい。」
彼は不思議に思わずには居られなかった。自分より外に父母は勿論多くの
従弟妹にも誰一人として見ない左利きに此の弟が生まれつくとは。尤も咄
嗟の際にもまず右手の出る程に幼時より徹底した矯正を彼は受けた。今で
は生来の右利きと言って全く差し支えの無い様に成って居た。鏡を前に右
手を挙げると映し身は左手を挙げる。彼は実際鏡の前に立って右手を挙げ
て見さえした。


 司政官試験の間近に迫った頃、乳母が蒼い顔をして修羅の居なくなった
事を告げた。眸の色の太陽光を跳ね返すには薄くに過ぎる為夏の厳しい直
射日光を修羅は嫌った。其れではいずれ成育に支障をきたす。乳母は修羅
の遊ぶ日陰に共に居ながら額に巻き付ける小さな陽射し避けを縫って居た。
ほんの一瞬目を離した隙の出来事だと言った。辺りに使用人以外の姿は見
無かったと言った。

 話を真剣な面持ちで聞いて居た彼は乳母に慰めの言葉を置き、迷う事無
く母親の従事長の元に赴いた。
「貴方の御立場は御察し致しますが、正直に話す事を御薦めします。私の
言う事が分かりますね。」
従事長は未だ十四歳の少年の鬼気迫る、冷酷極む態度に唾を飲み込んだ。

 従事長の言葉通り、修羅は寂果てた谷奥の小滝の元に、額を割られ捨て
置かれて居た。主人の命令であれ相手が三歳に満たぬ幼子、然も忌み子と
なれば手を下すに躊躇を責められぬ。傷は大きく額を覆い尽くしては居た
が深さに足り無かった。然し額の傷と云うのは思わぬ出血を見る。もう少
し発見が遅くなれば間違いなく生死に拘わりもしたであろう。

 傷は少時に完治を見たが醜い傷痕を残した。“折角の……”其の時彼は
不図思いに詰まった。“折角の”何だと云うのだろう。幸いに傷痕は乳母
の創った陽射し避けに上手く隠れた。


 「良く遣った。褒美を所望なら何なりと言うが良い。」
司政官試験には一度に及第した。其の様に教育されて来たのだから当然至
極の結果であった。喜びも希望も其処には無かった。だが父親の此の言葉
に彼は機先を制すが如くに言った。
「其れでは申し上げます。私は此を機に此処を出る所存です。」
最早彼に楯突く気概を父親は持ち得無かった。
「では褒美の印として私から宅(いえ)を造らせよう。但し遠方は成らぬ。
其れから……」
父親の言葉を彼は悠然と遮った。
「有り難き幸せに存じます。無論父上御身罷りの際には此処に戻り長の身分
を全う致します故。」
 こうして約半年の後彼は乳母と少数の従者と共に、修羅との誰にも邪魔
をされぬ生活を手中とする事と成った。


 昼には司政官としての仕事が在った。夕刻に家に戻ると乳母の修羅の一
日の報告を習慣とした。修羅は口数は少ないが活発で好奇心に富む童子で
あった。往々にして乳母の手を焼かせもしたが、読み書きにも長け幼時よ
り好んで子供用の書物を手にした。従者の殆どが気味悪さに好んで近付く
事をし無かった。唯一人子供好きの従者が良く共に戯れ笑い声の漏れ聞こ
えたりもした。
「修羅様には武芸の素質が御有りの様です。良い武術師か剣士に成られま
すよ。」
「何時も弟の面倒を有り難く思って居ますが、彼の人生にまで口を出され
たのでは敵いません。」
彼は一言で火照る従者の顔色を失わせた。
 修羅の無垢の微笑に彼は返して遣る物を持た無かった。余りに平凡な弟
の成育に彼は失望に近い思いを禁じ得無いで居た。


 一生を籠の鳥で過ごすならともかく、何時かは外界を知らねば成らぬ。
五歳を迎えた頃、彼は休日を利用して修羅を外に連れ出した。噂は其れま
でに充分に知れ渡って居た。初めて見る銀の眸の童子に遭う者皆が奇異の
目を注いだ。
 「何故皆は妙な目で僕を見るの。」
家に戻り付いた弟は真に子供らしい質問を投げた。
「お前の眸が皆と違う色をしているからだ。修羅。此の国に於いてお前は
“忌み子”としての取り扱いを受ける。調戯われ、虐られもするだろう。
今から心しておくが良い。」
彼は冷厳に徹した態度で弟に真実を伝えた。修羅は黙ったまま銀の眸を斜
めに臥した。
「そうなんだ。」
まるで此れまで積もった疑問全てに合点がいったとでも云うように修羅は
小声で一言呟いた。其れから少時して確と彼の顔を見詰めた。
「でも今日は色々と面白かった。どうもありがとう。」
微笑もせずそう言い放った時、銀の眸は今までに無い光を発した。軽い戦
慄を彼は覚え、朧気に予兆を其処に見た。


 当初は従者が付き添うのを習慣とした。然し彼が司政官上級試験を二十
歳に迎える用意に取り掛かるよりずっと以前に、修羅はすっかり独りで出
歩く事を覚えて居た。其の頃には自分から額に太い布を巻き付けて居た。
世間の修羅を冷酷至極に迎えたのは云うまでも無い。大人は修羅を故意に
遠ざけ嘲りと卑しめの言葉を投げ掛けた。同じ年頃の少年達には恰好の鴨
と成った。修羅の怪我をして戻るのは常時の事であった。其の心も同様に
傷付けて居たのは想像に難く無い。時には部屋に閉じ籠もり日がなを読書
や何やに費やして居た。時に難解な文字を、乳母にでは無く彼に訊きに来
る事が有った。その都度彼は丁寧な応対をした。弟は必ずありがとうと言っ
て去った。
「怪我は幾らしても良いが治療を怠る真似はするな。」
其れ以外に掛けて遣る言葉を彼は持た無かった。


 梅雨の引きずる茹る空気が懶(ものう)い頃であった。最難関の試験を
控え彼には早目の帰宅が増えて居た。其の日修羅は外に出たきり戻る気配
を見せなかった。まだ外は夕暮れに陽が赤い。気に掛ける事無く彼は机を
前に書物を広げて居た。

 乱雑に扉の開く音がした。彼の机からは玄関は死角と成る。書物に熱中
して居た彼の、何時までも弟の姿の現さ無いのに気が付く迄には相当の時
を要していた。乳母や従者は呼ばぬ限り彼等の部屋から出る事は無い。椅
子より立ち上がり玄関の見える処に来た途端彼の足は枷を掛けられたかの
様に急に動きを止めた。


 其の姿は彼の眼球を穿った。修羅は土埃に塗れた体躯を玄関の柱に凭れ
掛け揺々の事に立って居た。左の肩を右手が庇う様に握り締めて居た。そ
の下には絞めた白鳥の首の様な腕(かいな)がだらしなくぶら下がって居
た。体中が擦傷に血を滲ませて居た。両の口端と両手首に赤紫の痣が浮か
んで居た。頬は涙の跡に土埃を濡らして居た。体躯は震えを押さえられず
に居た。銀の眸は朧に虚空を徘徊いて居た。着物は形骸を留めぬ程無惨に
裂かれて居た。其の裂け目から覗く内腿には土埃と血液と体液の入り混じっ
たものがべとりと纏わり付いて居た。眼球を穿った先端は彼の核に到達し、
其処を容赦無く刳り続けた。

 「しゅ……」
漸く発した彼の声に修羅はびくりと反応した。
「や……やめ……」
震える口元に声はかろうじて言葉を成した。
「修羅。私だ。」
修羅は脅え涙に潤んだ眸をあらぬ方に徘徊かせた。初め小刻みだった体躯
の震えは目に見えて酷く成った。ゆっくりと彼は歩を進めた。
「く……来るな……お……おれに……俺に触れるなぁぁっ。」
絞り出された叫び声と共に、修羅は眸開け放ったまま彼の腕の中に崩れ落
ちた。腕の中に任せる弟の体躯の存外の重さが、温かさが、柔らかさが穿
たれた穴を更に酷く深くに刳った。


 医術師の所見を拝むまでも無く真実は彼に明らかであった。猿轡を噛ま
され両手を縛られ利き腕の上腕骨を折られて尚抵抗を諦め無ければ尺骨
までもを犠牲とするのを彼等は一向に躊躇わない。神を畏れず死を恐れず
魔を享受する官能と征服への欲望に満ちた、童子と成人の端境の男達。彼
等に忌み子の存在が此以上望むべくも無い生贄と成るのは、其の数が片手
に足りぬ事と共に容易に想像が付いた。何より自分が其の年代を経験して
来て居ただけに想像が付いた。

 修羅の寝床は薄絹の陽射し避けの掛かった硝子窓を頭にして居た。左腕
を木型に嵌め込まれ修羅は其処に横たえられて居た。意識は戻り来て居た。
視覚も聴覚も在った。唯、識別を拒んで居た。体躯は触れられる事を著し
く恐れ拒んだ。其れ故水を流し込むのが漸くに、食物を摂らせるのが不能
であった。腕は冬を越す頃には不自由を見なくなるだろう。だが砕け散っ
た魂の再生するのが何時かは医術師にも測りかねた。其れが可能なのかも
測りかねた。
 「修羅。」
彼の声と判別出来無い開いたままの眸は恐怖に揺れた。木型から覗く小さ
な傷だらけの手背(しゅはい)に彼はそっと触れてみた。途端修羅は体躯
と頭を気狂いの様に互い違いに曲(くね)らせ暴れ、喘ぎ声を発した。恐
怖の余り叫ぶ事さえ許されない修羅の発作の治まるのをじっと見守った後、
彼は背(そびら)を向け部屋を後にした。


 自らの部屋に入り彼は褥に腰を下ろした。忌み子は人の魂に宿る醜悪な
る空華(くうげ)を露呈するが故に畏れられるのだと彼の腑に落ちた。其
の腑に穿たれた穴より沁み出ずる様に涙が眦にしとどに溢れ流れた。初め
て経験する滂沱に戸惑えぬ程の呻吟に彼は居た。頭の理解するより先に魂
の感応の在る事を彼は今日まで判然させずに来た。彼の前に続く道に其れ
は不要有害なものと排斥された。にも拘わらず修羅の銀の眸を彼は、是も
非も無くただ美しいと感じて居た。然し其れさえも自身気の付かぬ内我身
の奥底に押さえ込んだ。そうして押さえ込まれた様々な物が穿たれた穴よ
り溢れ出して止ま無かった。幾重にも錠を掛け閉ざされた門を身を呈して
開いた銀に美しい眸の半神が今、目前に壊れゆこうとして居た。彼は其れ
への想いに泣く事を止められ無かった。嫌悪に憐憫に慚愧に泣く事を止め
られ無かった。


 次の日より彼は必ず日に一度乳母や医術師達に退席を願い修羅の元に二
人きりの時を持った。
「修羅。」
傍に座り声を掛けたと思うといきなり彼は弟の手の甲に触れた。反応は極
めて敏感に且つ極めて病的であった。弓の様に体躯を反らせたかと思うと
ぐうと厭な音を立てて修羅は其のまま失神した。呼吸が停止して居た。泡
の噴いた口唇に迷う事無く彼は人工呼吸を施した。少時の後ひゅうと云う
音と共に漸く呼吸が蘇った。はぁはぁと修羅の激しい息の治まるのを待っ
て彼は静かに部屋を出た。

 次の日もまた彼は弟の手に触れるのを辞め無かった。修羅の発作は変わ
らぬ痛々しさに揺れた。薄絹を通して漏れる柔らかな光りが、見開かれた
眸を反射して部屋中に銀の色を撒き散らした。然し今回は息の停止を見な
かった。発作の治まるのを待って彼は独り言のように語りかけた。
「修羅。私の弟。強くなれ。お前の美しい眸が仇となる此の地でも独り生
きてゆける程に。其の為に出来る事であるなら私は何でもしよう。」
修羅の眸は其の言葉の元に低徊するかの動きを見せた。

 幾日(いくか)が其の様にして過ぎた。食物を摂れぬ修羅は日を重ね痩
せ衰えて行った。弟の、手に触れられた発作の治まるのを待った後彼は必
ず一言を加えた。
「何か欲しい物は無いか。」
返事は常に無かった。だが或る日言葉に成らぬ言葉が修羅の口を出た。
「あ……え………」

 次の日修羅の初めて粥を口にしたと乳母からの報告が有った。相変わら
ず彼は一人傍に座り手に触れた。其の日発作は彼の目に可成りの軽減を感
じさせた。
「何か欲しい物は無いか。」

「……け……けん……。 け……んが……ほし……い……。」
掠れ声は絞り出され消えゆこうとした。一言一言を掬うように聞いた彼は
冷静を努めゆっくりと訊ねた。
「けん。けんとは刀剣の事か。」
其の一瞬銀の眸に紫電の如くの光りが宿った。
「ころ……してやる……お……れを……あざ……けり……やがった……や
つ……ら……みな……。」
彼は修羅の貌を見詰めた。激しい憎悪を噴き上げる完全な正気が其処に在った。

「承知した。」
左手を彼は軽く握った。発作は至極小さなものに済んだ。

 次の日彼は弟に言った。
「今日鍛冶に左利き仕様の剣を頼んだ。左腕の使える様に成る随分前に
間違いなくお前の物と成る。」
其の言葉に修羅は初めて頭を横に銀の眸で確と彼を見据えた。
「其れ……なら……右……利きの……剣……が……いい……。
腕の……治るのなんか……待って……待って……いられない……。」
「……では明日変更を鍛冶に伝えよう。楽しみに待つが良い。」
修羅は小さく微笑した。手を握ると発作は起こらずに済んだ。以降修羅は
元来の食欲を取り戻した。事の起きて後十日余りを経て居た。こうして塗
抹された筈の精神的外傷が時に年月を経て思わぬ形に顔を出す事が有る。
依然霧散せぬ影の付き纏うのを彼は拭い切れずに居た。


 多くが生涯を費やして尚合格を見ぬ司政官上級試験にも彼は一度に及第
した。二十歳を迎えた祝いと共に饗宴は盛大なものと成った。以降彼は一
族の長としての細々とした煩事から逃れてばかりも居られ無く成った。
 此の国は鎖国を原則とした。厳格な制限付きとは云え外の土地への往来
を許される唯一の階級がこの上級司政官であった。綺語を操り美辞麗句を
並べ立て他者を蹴落とし唯一己を頂に相応しいとする魑魅魍魎の跋扈する
世界。一時の留守は一生の不覚に充分繋がり得た。因って此の特権を行使
する者は皆無に近かった。長年彼にも其れは無用の長物と映って来た。然
し門の開いた彼に外界は突如として純然たる興味の対象と成り得た。だが
今はとりあえず家に居る事を能しとした。深まる秋が辺りを紅葉に彩り染
める頃、神韻に輝く剣が鍛冶より彼の元に届いた。

 「待ち侘びたな。此がお前の剣だ。」
右手に手渡された剣はずしりと修羅に重感を与えた。銀の眸がぎらりと輝
き刀剣と同じ光を放った。顔はみるみる歓喜の色に染まった。
「当初は慣れぬ右腕使いに辛い思いもするだろうが、左腕が完治するまで
は焦らず決して無理をするな。下手をすれば剣持つ者として一生の悔恨を
残す事に成る。」
布に窮屈に締め付けられたままの左腕を修羅は忌々しく見詰めた。
「……剣技に基礎は不可欠だ。私の教わった剣術は単なる嗜みとしてのも
のに過ぎず実戦には不向きと思う。良い師を付けるか。」
「要らない。」
剣より眸を上げる事無く修羅は即答した。
「兄さんに教えて欲しい。忙しいだろうから片手間でいい。あとは自分で
やる。」
高揚した顔に弟は剣を眺めては振り、振っては眺めする事を何時までも止
め無かった。
「有り難う。兄さん。」
「……左腕が完治すれば元々利き手で強靱な分、両手使いにも劣らぬ剣の
使い手と成るだろう。強くなれ。私の修羅。」

 弟を残し庭より家に入ると待ち構えて居た様に乳母が言った。
「修羅様はまだほんの童子。真剣を持たせるのは早急に過ぎませんか。」
「木刀で人を殺傷する力は未だ彼には無いでしょうから。」
「では武術の嗜みとしてでは無く、人様を斬り殺す為に真剣を御与えにな
ったと、貴方様は本気に仰るのですか。」

「……貴女は今朝何を食されましたか。」
突然の問いに乳母は言葉を失った。
「人は、否(いえ)、生きとし生ける物は皆、他の命を糧に自らの命を
生き永らえさせて居るのではありませんか。」
「……貴方様の其れは単に詭弁に過ぎません。」
真に乳母の言うのは正論であった。だが彼は思う。正論と云うのは何故
何時も皮膚を掠め擦傷を残すのみに彼方へ飛び去ってしまうのだろう。


 左腕の完治の後修羅の剣技の上達は驚異を極めた。時を窺い自ら独り
外に出もした。怪我を背負って戻る事は相変わらず常時であった。
 或る夕刻に修羅は蒼い顔をして戻った。人を殺したのだと言った。真
剣を手にして三年の経つ頃であった。装うまでも無く彼は平静に其う云
う運命に有っただけの事だと告げた。其の日と続く一日を修羅は一歩も
部屋より出ずに過ごした。だが其の次の日には何事も無かったの如くま
た何処かへ出掛けて行った。野生動物の持つ強靱な生命力と、極めて精
神的な脆さが修羅の中に錯綜して居ると彼は思った。今日にも件の後遺
症が姿を現しても不思議では無かった。其の影を拭い去るかの如くに彼
がもう一本の剣を弟に与えたのは此の頃であった。


 仕事にも一族の瑣末な用事にも漸く一段落を見た彼は生涯に於いて初
めて国外の土を踏んだ。此の経験は彼に少なからず感慨を齎した。人々
の髪の眸の様々な色の在る事さえ彼には新鮮な驚きであった。然し同時
に或る種の失望感も彼を捕らえずには居無かった。訪れる何処にあって
も富む者はより富む事に邁進し、多くは貧しさの中に喘いで居た。何処
の人々にも悩みの、苦しみの尽きる事は無い様に思われた。帰国後彼は
未だ少年の弟までに其の思いを口に滑らせた。


 一度に十日以上の外出を、国の法も一族の煩事も彼に許しては呉れ無
かった。帰国後にも彼はまるで未だ見ぬ麻呆良(まほら)の存在を渇望
するかの様により遠くの国村への関心を葬れずに居た。其れには間諜の
存在が必須と成った。二度目に出国したのは半年の後であった。彼は隣
国に間諜を雇った。こうして半年の度に彼は出国し間諜より様々な国村
の様子を窺うのを慣例とする様に成った。其れは全く個人的趣味の範疇
を出るものでは無く自国の司政に何等の利点も危害も与えはし無かった。
元より彼は司政官と云う仕事に一片の興味も持っては居無かった。



 彼の上級司政官と云う役職を明かす事は厳禁とされて居た。元より彼
に其の様な気持ちの毛頭在る筈も無かった。だが秘め事は往々にして発
覚する。足を運ぶ機会の増えた隣国の或る富豪の主人に彼は突然屋敷に
招かれた。其処には年頃の美しい女性が居た。大変心持ちの悪い思いを
彼は禁じ得無かった。案の定宴の後に二人きりに散歩を薦められた。
 夏が終焉を迎えようとする頃であった。何処からか秋津が飛んで来て
女性の肌を露わにした腕にふわりと羽根を休めた。
「あら。」
そう言って女性は愛おしそうに秋津を見た。此は彼には全く予想外の反
応であった。
「蟲が気味悪くは無いのですか。」
「どんな生き物も人に気味悪がられようと思って生まれて来るのでは無
いでしょう。」
秋津は飛び去って行った。だが彼の心は其処に在った。
「其れでは貴女は蛇の腹も気味が悪くはありませんか。」
「私は子供の頃、蛇の抜殻の御腹を真珠の様だと宅に持ち帰って酷く叱
られた事が有ります。」
女性はくすりと榛色の眸に悪戯ぽい微笑を露にした。
「尤も今では妙に理性が先に立って流石に蛇には恐ろしい気持ちが働き
ますけれど。」
もう一度女性はくすりと笑った。美しい微笑だと彼は思った。
「私と云えば大変に生意気でしょう。」
女性を愛おしいと思う事は彼にも有った。だが傍に居て心地の良いと感
じたのは生涯に於いて此の女性が初めてであった。
「若し銀色の眸をして居るが為に人々に忌み嫌われる人間が居るとして
貴女は平気で其の人間と共に居られますか。」
「何だか質問に攻め立てられて居る様ですね。」
女性は穏やかに責める様な言い方をした。
「貴方の眸が銀色であればと思う位です。」
そう言ってまたくすりと笑った。彼は心を決めて居た。二十六歳を迎え
て間も無くの頃であった。


 他国の妻を娶るのには予想を遙かに越える困難を極めた。詳細に亙る
資料の提出を必要とされた。公出する資料の作成に必要な調査の折に彼
は偶然驚愕すべき事実を見た。彼女の父親が育ての親に過ぎず血を繋ぐ
父は遙かに遠い亜魏国の者との報告が其れであった。真実は父親に彼女
に未知であるとの追記までが在った。彼は其処に自らの運命を予見する
かの妙な感覚が宿るのを覚えた。亜魏は後ろに山脈を頂き前に茫洋たる
海の広がる平和な大国として知られて居た。にも拘わらず近年其れに陰
の差して不穏な空気の萌して居ると報告書は続けて居た。其等の事実を
彼は全て隠蔽した。其の上で此の結婚を一族にも皇族にも承認させた。
彼には其の力が在った。然し其れでも其処に一年の歳月を要とした。権
力を行使する際彼は蛇腹の道に馴染む醜悪な自分自身の姿を確かと見た。
此を故に亜魏への興味は他国の其れを遙かに凌駕するものと成った。


 「修羅。私は隣国より妻を娶る事に成った。」
「……兄貴らしいな。」
そう言うと修羅はふっと微笑した。
「此がお前にして遣れる最後の贈物と成るかも知れぬ。」
修羅に手渡された剣は重く、長く、美しく銀に艶を走らせて居た。其れ
は完全に成人の剣であった。

「俺は……あの時の奴等全てに片を付けた。だから……。」
まだ少年の域を出て居ないのにも拘わらず修羅の声は大変に低く静かに
呟く様な話し方をした。
「だからもう大丈夫だ。」
一瞬修羅は銀の眸を横に伏した。然し直ぐに微笑した。
「そうか。だが何も此処を出て行く必要は無いのだぞ。」
修羅は呆れた様に兄の顔を見た。
「兄貴。俺も新婚の邪魔をする程野暮じゃあない積もりだぜ。其れに間
も無く俺も兄貴の真似じゃあ無いが国の外に出て行く積もりなんだ。」
此れには彼も驚きを禁じ得無かった。修羅はくっと笑った。
「忌み子と云うのも便利だぜ。国を出るのは大歓迎だと。帰って来たら
来たで元々此の国の人間なんだから入れぬ訳にも行かないらしい。」
「……そうか。」
「此の剣……大切にするよ。」


 まだほんの少年でありながら何人もの血に手を染めた修羅は自嘲気味
に微笑するのが癖と成って居た。其れは自分を殺し乍ら生きて居る彼と
同じ種の微笑であった。修羅の前には色合いこそ違え同じ蛇腹が横たわっ
て居るのが彼には見えた。あの忌まわしき経験の再び顔を出す不安は杞
憂に終わるかも知れぬ。だが其れより余程辛い苦痛の弟を待つのが彼に
は予想し得た。野生動物の様に自由に生きるには孤独に耐え他人に牙を
剥き血に塗れ続けなくてはならないであろう。生涯を束縛に終える己に
憐憫を感じるが如く、彼は其処に憐れを感じずには居られ無かった。蛇
腹の道にさえ剣を向け、懸命に闘い続ける弟に頼もしい憐憫を感じずに
は居られ無かった。


 結婚の後は別の国に間諜を移動させ、亜魏国の調査を続けさせて居た。
亜魏の国情には変化の酷く著しかった。情報を得る為に余処の国の情報
を売らねば成らぬ事態も起こった。其の様子を偶然其の国に居合わせた
修羅に附け見られたのを彼は承知して居た。此に修羅の酷く煩悶するで
あろう事も容易に想像が付いた。然しどうする事も仕様が無かった。説
明等すればする程話は捩れるばかりであろう。国に戻っても其処等に修
羅の姿を見る事は無かった。


 程無く亜魏国による全大陸への襲撃の開始されたのは彼の予想した通
りであった。彼の真っ先に標的と成ったのも予想に漏れ無かった。


 拷問の責苦に薄れ行く意識のなかで思い出すのは不思議にも修羅の泣
き叫んで居た誕生と叔父の微笑して居た死であった。人は泣いて生まれ
微笑みに死んで往く。妻は私の死に悲しむであろう。修羅は怒りに我を
忘れるであろう。どちらも必要の無いのだと言っても仕様の無い事だ。
最早痛みも感じ無く成って居た。何時の頃からであろう、心の片隅に幽
かに憧憬して止ま無かった死は直ぐ其処に在った。
 ──強くなれ。私の修羅。私の半神。弱きに死ぬより能の無い私を踏
台にして──真の意味に強くなれ──。



" this mortal coil":「この世の煩わしさ・憂世」



-end-



蒼い刀




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