修羅よ 何もかも 未だ閉じられた 母なる宮の羊水のなか 勾玉のごとく身をくるめ とくとくと 心の臓なる音(おん)を ただ、耳にして 其は何を想うていた その温かき 宮より出でるはなまぬるい ぬらぬらと纏い付く血と共に そうして開くは銀の瞳 在ってはならぬ銀の瞳 その、あらぬ瞳に 其は何を見た 煌とぼやと闇のなか たったひとつの月明かり 白刃たてればそのひかり ぎぃと音たて飲み込んで 同じいろにぎらりと一閃 払い除けるかに 振りかざしてはまた一歩 其は何想う 想うて歩む ぶらりと下げた剣の先 ぽとりぽとりと鮮紅たる 滴(したた)り落ちれば 地に渦と 沁み入る血の足下に じわりじわりと浸食し その一方に 滾(たぎ)りやまぬは騒がしい 血のどくどくと憑かれたごとく だがそれこそが命脈たる 音のrhythmを背に掌(てのひら)に 聴き続けてはまた一歩 其は何処に 何に向こうて足を出す 人と遭い 人に想えばゆらゆらと 彷徨い燻(くすぶ)り炎と散らす こころのただひとときの 寄る辺と見えたも幻影(まぼろし)と たとえそうであったとしても そうであったとしても ひとつの真(まこと) 手の指の 先に触れたと思えば彼方 もがき足掻けばあがくほど 陽と影の、影と光の 織りなす妖しの惑わしの 人の人たる生き様の どうにもならぬうねりと襲い それらは容赦のひとつもなくに 己の身にもこころにも 螺旋のごとくに絡みつき 喘ぐかに 震える左手に鯉口を 切れば、ちゃ、と無明のなかに 音の響きの地を這って その繰り返し 千と、万と ぎらと閃光放ち続ける 銀の瞳の今一度 閉じられる幕引きの その刻までの御一興よと く、と白き犬歯の 覗くか否かの笑みひとつ その口角に落としては 何想う 想うて一歩、今日もまた 今生のなか 修羅のなかを ただひとり──。 |
-了-