しなやかな浴衣を身にまとう 初々しく輝く女性たちの姿の街並みの あちらにもこちらにも。 あぁ、と気がつく 今日はあの花火の日だ。 一体いつからなのだろう この日に花火大会の執り行われるようになったのは。 その規模は大変に大きく 直線距離にしても15kmは優に離れているだろうKの家にも 打ち上げの音の地鳴りのごとくに響き来る。 「花火、観にいかない?」 学校の夏休みに帰省していたYからの電話 笑顔にKは承諾する。 待ち合わせの駅前に 先輩に借りたというクルマの中でYは待つ。 「暑いねぇ。」 「久しぶり。」 「うん、久しぶり。」 「変わってないね。」 「うん、そっちも。」 Yは不思議な人だとKは思う 共にいて楽しい男友達ならいくらも居るのに。 Yと初めて知り合った時、Kには恋人がいた そうしてYにも、大切なひとがいた。 今はどちらにも、いない。 「クルマから観られるベストポイント知っているんだ。」 それならそれまで時間をつぶそうと当てのないドライヴ それがすこしばかり長すぎた そのベストポイントとやらに辿り着いた時には あれだけクルマの中より聞こえた打ち上げの音もなく 窓を開けてもただ虫の音のさえずるばかり 思わず顔を見合わせ二人吹き出す。 「花火、毎年あいつと観てたんだよね。」 Yの大切な人と、駄目になったいきさつを Kは知っていた どれほどにYのそのひとをいとおしく想っていたか そのひとの、どれだけ泣いたか。 そうしてKの手ひどい失恋の顛末も Yはすべて知っていた。 静かな中にクルマはゆっくりと動き出す Kの家のすぐ近く仄暗い電灯のもと 「また会える?」 「うん。またね。」 クルマの扉開ける音の、かちゃりと響く。 それからしばらくののち まずYに新しい大切なひとの そうしてほどなくKにも人生を変える人が現れる。 今もKは花火の地鳴り聞こえる場所に住み Yは仕事で世界中を駆け巡る。 花火の日は今年も変わることなくやってくる。 |