作品『十三夜月』あとがき



秋の小品(拍手御礼作品)を書かなければと、秋をテーマに 久方ぶりに、創作に向けて頭を絞っておりますと、どういう 訳か浮かんで来たのが狐のお話。しかしこれ、小品にする には長すぎるし、何よりあまりに暗すぎる。という訳で急遽 小品は別の他愛のない、しかしやはり狐のお話を上げ、 こちらは短編にまとめるという、「狐」或いは「秋の月」 二部作、という感じに落ち着いてしまいました。雰囲気は 両極端ですが。

比丘は本来、ちょっと出のキャラに過ぎなかったのですが、 こちらにも少し背景をつけた為に、話が長くなり、また、 当初考えていたものとは、少々趣きも異なり、なんだか またまたすごく抹香臭くなってしまいました。こんなのばかり 書いていたら、仏教に余程興味があるように思われてしまい そうですが、ある点で興味があるだけで、お経のひとつも、 読めないような人間です。

文中の「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。」という 一文は、親鸞聖人の考えをまとめた「歎異抄」に出て来る大変 有名な言葉です。親鸞聖人は浄土真宗なので、厳しい修行とか 托鉢とか、多分ないんじゃないかと思います。でも親鸞聖人 自身は大変厳しい修行をしたそうなので、浄土真宗が出来上がって ゆくまでには、こんな事もあったかも〜……と、第一、時代考証 が曖昧過ぎるし……こういうのをご都合主義というんですよね……。

「ひとつの国」という言い回しは、レイ・ブラッドベリの 「10月は黄昏の国」の原題、「The October Country」という言葉 が昔からすごくお気に入りで、「十月はひとつの国」という言い回し が、ずっと昔から自分の中に巣喰っているんです。ようやく吐き出し たか、という感じです。有り体に言えばパクリかもですね(笑)

魅入られる、という言葉も、意味も、私にはすごく魅力があって。 それは、人生を変えてしまう、ものだと思うから。主人公も、比丘 も、魅入られた、訳ですね。

本腰を入れて書いたのが随分久し振りという事もあってか、なんだか 書くのにかなり労力を伴う作品でした。創作ってやっぱり楽じゃない ですね。実感。






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