春─白魔法







春はさくらいろ、れんげいろ。

でもわたしのその年は
白いいろに閉じこめられた春だった。

小学二年の終業式を終えた春休み
すぐに催されたお友達のお誕生日会
そこでちょっとだけはしゃぎすぎ。

レントゲンなんて初めて見たけれど
わたしにだって分かった
左足親指の付け根に見える真っ白なひび。

親指の付け根だけなのにどうして?
わたしの足は、足先から膝下まで
まるでソーダ水みたいに鮮やかなブルーの
綿菓子みたいなものにくるまれて
その後、真っ白の石膏で固められてゆく。

え?え?どうなるの、わたしの足はどうなるの?
ひどい痛みにも流れなかった涙がどんどん溢れてくる
すると若い方のお医者さんが
「そんなに泣かれたらこっちが辛くなるよ……」と
ぽつりと言った。

石膏で固められた足は魔法をかけられたように
不思議なほどに痛くもなんともない
ロボットみたいにガコンガコンと歩き回って
家中白い石膏の粉だらけ
困り果てたお母さんがわたしのギプスを
白いタオルでぐるぐるまきにした。

春休みの終わりを明日に控えたそのうちに
駄々をこねて無理矢理ギプスをはずしてもらった。

ぎゅーん、とすごい音をたてる電機ノコギリが
白い粉を撒き散らしながらギプスを切ってゆく
ぱかりと開いたその中から出てきたわたしの足は
なんだか生まれたての犬の赤ちゃんみたいだった。

自由が戻った……はずなのに
ギプスをはずした途端に襲う痛み。

結局わたしの足はアルミの足形に固定され
やっぱり白い包帯でぐるぐる巻き

びっこをひきひき学校に行く
痛くてもそんなことはちっぽけなこと。

久しぶりの外気はもうすっかりとあたたかで
周りにはいろんないろの花
学校は相変わらずクレヨン箱をひっくりかえしたよう。

かけられた白いろ魔法は溢れる色彩に囲み込まれ
ようやくのことにどんどんとその効力をなくしていく。

こうしてわたしのさびしくたいくつな
白い春は終わりを告げたのでした
痛みという余韻をのこしながらも
ゆっくり、ゆっくりと──。





-end-


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