鏡の国のギル

〜鏡を通り抜けて、そこでギルが見たものは〜

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小真珠 この物語は円舞曲さま作品「異世界NOREVAシリーズ」のパロディです
是非是非素敵な円舞曲さま作品を体験して後こちらをご覧下さい!
小真珠



 物語チェスは難しい。なぜならば、ただチェスに勝てばいいという訳ではないから
である。勝った上に物語を完成させてやっとチェックメイトとなるのである。
 それには黄金比率ならぬ黄金パターンの物語をなぞるのが手堅い。配役もモデルを
使った方が迷いも起こらない。
 さて、どの物語をなぞろうか、誰を配役に当てはめようか……


 今宵の相手はセリーヌ・レライで弟子ノアノアの祖母である。彼女はさすがに一族を
まとめていただけあって手ごわい。
 その大胆で手堅い攻撃に耐えて進める駒といえば、何事も自分本意で大自信家のギル
がよいか。そしてギルを導くのには、ここは冷静沈着なノアノアあたりが適任じゃろう。
彼女は以外と孫で唯一男子のノアノアには甘ようだから、なお更いいだろう。




◆◇◆◇◆



 さて、物語りは鏡の前から始めるとしよう。


 鏡の日(鏡に感謝する日)を前日に迎えて、ギルは主人に言いつけられた鏡を磨いて
いた。そこへ、飾り付けの相談をしにドラムが現れた。
「そこの暖炉の鏡にはどちらの色がいいと思いますか?」
 左手と右手を同時に差し出してドラムが問いかける。
「それをオレ様に聞くのか?」
「出来れば。ご主人様は自由にされてよろしいということでしたので困ってます」
「困ってると。なるほど! それでセンスのよいオレ様の決断が欲しいのだな。オレ様
は右のがいいと思うぞ」
 一人で納得して自信満々でギルが答えた。ギルの双眸が赤く染まる。
「じゃ、そうします」
 ドラムは答えを得たことに満足して、うっかりして扉を閉めて出て行ってしまった。
閉めてはいけない扉を、鏡を磨いているギルの姿が映っている鏡の真向かいの鏡付き
扉をドラムは閉めてしまった。
 ギルが音を聞き、慌てて魔物の移動を試みようとした時には、すべてが遅かった。
ギルの磨いていた鏡と扉に取りつけられていた鏡が合わさって、ギルの姿は鏡の向う
へと吸い込まれていたからだ。
 嘘だろう? オレ様とあろう者がこんなことになるなんて、あろうはずがない。
絶対、あってはならないのだ。
 だが、ギルの目の前に広がるのは見なれた景色ではなく、見覚えのない景色だった。


「早くしないと乗り遅れるよ」
 どこからか現れた人物にいきなり手を捕まれ、強い力で引きずられてギルは走る。
回りの景色は変わらないが空気だけは髪が舞い上がるほどに流れていく。
 オレ様を引っ張るほどの強力を持つ者は誰だ。この世界にそんな者が存在するわけ
がない。あってはならない。ギルは呟く。
 捕まえれている相手を見遣って更に自分の黒曜石の両眼まで疑うギルである。なぜ
ならば、相手は自分より華奢な少年に見えていたからだ。赤を基調にした金糸をゴー
ジャスに施した派手な上着に揃いの赤い靴、赤い帽子。どうしたって、自分を引きず
るようには絶対見えない。
「おい、どうしてオレ様を引きずる」
「小さい者が大きな者を引きずるのは当たり前じゃないか」
 少年の足はますます加速する。
「どうして走る」
「決まってるじゃないか。もちろん君を王様にするためだよ」
「オレ様はオレ様だ」
「訛ってるんだね。“オレ”じゃなくて、“王”だよ。まあ、いいけど」
 急に手元が離されて、足が止まった。世界は走り出した時と変わらないように見える。
「ここからは割合に簡単だから大丈夫だよね。手強いヤツらはいないから。この先の
小川を越えると次のマス目だよ」
 突然、風が吹いた。少年は赤い帽子を飛ばし「じゃね!」と言うと帽子を追って見え
なくなった。


 ここはどこだ!
 森であることだけはわかるギルである。仕方なく、少年に言われた方向に向って歩く。
小川が見えたので飛び越えた。すると、変な歌が聞こえてきた。


「双子の魔女のミランダとリランダが争うよ。
 最高級プリンを巡って、なりふり構わず。
 今日も派手に一戦交えるよ。
 いつも勝者も歯医者もなし。
 結局、最高級プリンは塀に陣取る審判のケインの物。
 口が達者で誰も勝てないお喋リ上手。
 あの口達者に口で勝てれば最高級プリンはそいつの物」


 次いで言い争う声が聞こえてきた。
「今日こそはぼくの物だからね」
「いいえ、あたしよ」
 ギルは言い争う二人の横を通り過ぎようとして、同時に呼び止められた。
「ちょっと、挨拶もしなの貴方?」
「ちょっと、挨拶もしないの君?」
 同じ顔だが性別が違う双子は不機嫌そうに言う。
「いい、ここはローラとセドリックの森よ」
「だからぼくらに挨拶しなくっちゃね」
 ギルが「知るか」云々と言いい返そうとした瞬間、その無気味な音が鳴り響いてきた。
虹彩城がミランダの言いがかりに身悶えして悲鳴を上げているな不気味さに勝るとも劣
らない音が。
「なんだ」
「決まってる。王様の鼾(いびき)だよ」
「近くで聞くともっとうっとりするわよ」
 双子がギルの腕を両側から取り、引きずるように歩き出した。ギルは振りほどこうに
も振りほどけず、双子のなされるままである。
 嘘だ! こんなことがあっていいはずがない。オレ様は認めない。
 ギルが一人混乱をきたしていると双子が手を離した。目的地に着いたのである。双子
はうっとりと王様の鼾に聞き惚れている。
 王様は大木の根元で眠っていた。赤いキャップに赤い寝巻き姿である。気持ちよく
だらけた姿に王者の威厳は見て取れない。
「これが王様か」
「起こしちゃだめだよ。君が消えちゃうかもしれないからね」
「消えるだと、このオレ様が」
 そんな馬鹿なことは起こらない。オレ様は火の魔物ギル様なのだから。自分で確信
するギルである。
「この世界は王様が見てる夢かもしれないのよ。だから、王様はいつもここで永遠に
寝てるの」
 人間が永遠に寝ることなぞ魔法以外にありえない。では、この王には魔法がかかっ
ているというのか。ギルは黒曜石のような瞳を煌かせる。
「魔法はかかっていない」
「ちゃんと時間が迷子になっているじゃないか」
 ふと、ギルは思う。この双子は主人の弟子のミランダのようにメチャクチャなこと
を言う輩に似てる。関わっていると、きっと碌なことがないと。
 双子は満足そうに王様の鼾にますます陶酔しているようだ。
 ギルは周囲に視線を巡らせた。捜していた目印が目に入る。ギルは真っ直ぐにそれ
に向った。
 紫の裾を翻して、ギルは小川を飛んだ。そして、見た物は……




◆◇◆◇◆



「チェスはマーリン様の勝ちで、物語はわたくしの勝ちですわね」
「さようだな。今回も勝負は引き分けてしまったようじゃ」
 五十七回中、五十七勝負が引き分けたことになる。
 やはり、手ごわい相手じゃわい。
 まさか、あそこで「ジャバウォッキー」を出し、こちらの物語を
さらって行くとは思わなんだ。
 まぁ、よい。次の勝負の楽しみが更に増えたということじゃ。

 



-end-




円舞曲さま、とても素敵な作品を本当にありがとうございました!


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