朽葉は伽羅いろ、黒鳶いろ。 山と積もった、上はかさかさ、痛いほど、 掘れば掘る程、しみしみと、手に凍むほど、潤い濡れて。 忙しない、その手の動きが、ふと止まる。 足下、下の下、 どのくらいの下かはわからない、 ただ、彼は感じる、囂々と、 確かな、力強い、脈の、鳴動を。 黒い瞳(め)に、 見上げればそこは鉛いろ、 天それひとつが鉛いろ。 そこに流れる、墨染めの、 雲、筋なして、いずこへ、どこへ。 急ぎなさい、急ぎなさい。 彼にも聞こえる、皆にも聞こえる。 目に耳に、鼻に肌に、毛の先にまで、 時に優しく、時に耐え難く畏ろしく。 急ぎなさい、急ぎなさい。 あぁ、どうしたんだろう、 なんだか、ぼんやりしてしまった。 そう思った瞬間に、 びゅうう、と、凍えの風の一吹きの、 朽葉を舞って、舞い舞わせ、 彼はただ、ぎゅっと目を閉じ、 風に飲み込まれぬよう、身を竦ませて、 伽羅いろの、黒鳶いろの、舞うさなか、 じっと、じっと、そのままに。 そうすれば まるで二度目の生命宿したかの葉々が、 元の死に場所へと落ちて来る、 かさ、と、或いは音を立て、 或いは、音ひとつも立てもせず。 彼の身体にも、一枚、二枚。 急ぎなさい、急ぎなさい。 もう、いいだろう、もう、きっと十分だ、 あちらにも、こちらにも、 沢山埋めた、上手に埋めた。 彼は登る、今度は良い場所に巡り会えた、 太い梢の、そのなかに、 ぽっかりあいた、ちいさな空洞(うつほ)、 何度も何度も、運び込んだ、 伽羅と黒鳶の、朽葉の寝床、 かさかさと掘り、かさかさと潜り込み まあるくそのなか、身を委ねては ゆたかな、ゆたかな尻尾を顔に、ふさりとかぶせ そうして、ゆっくり、目を閉じる。 びゅうう、風の舞う、音がする。 安心おし、ちいさく聞こえる。 こんな風など、私を揺らすに事足りぬ。 安心おし、どんなに北風が舞おうとも 世界を白銀へと染め上げる、吹雪が攻め来ようとも、 私はびくともしない。 下から、上から、聞こえ来る。 あぁ、暖かだ、温かだ。 遠くに、遠くに、音が行く、 音が、音が、遠くなる。 彼は睡る、深き睡りを、彼は睡る。 夢さえ見ない、 感覚さえも、どこか遠くに、落として来てしまったかのよう。 彼は知らぬ、 何故、こんなに睡りが呼ぶのかも。 彼は知らぬ、 次に目を醒ます刻の、本当に来るのかさえも。 彼は睡る、ただ、睡る。 真白き冬を、見る事も 感じることもなく、 ただ、彼は睡る、 睡りを、睡る。 慈悲深く、容赦のない、 冬の懐に抱かれ、身を任せ、 何ひとつ、保証のない繰り返しを、 繰り返し、繰り返し、 深く、深く、 彼は睡る。 |