十三夜月

秋の夕暮れ
既朔、眉月、上弦の
九夜月を待てばようやくに
紅の鬱金(うこん)でさえも物足りぬと
緋(あけ)を筆よりひとしずく
ぽたりたらして混じわった
そんないろもて、十三夜月。

ぼうやりと、和紙を透(すか)したかの幽玄の
そのひかりもて、何を照らすか秋の月
ひかりのもとは、神か魔か
はらいそへの、しるべかそれとも
いんふぇるのへのいざないか
魅入られしものの行く末は
善事凶事(よごとまがごと)如何様に
さてこれより語られるのは、
嘘か真か、信じるも信じぬもご自由に
ただ、語り部の、滔々と、
十三夜月、その彩なすひとつの国の、
幽(かそ)けき、幽けき、ものがたり。



おおお、と、洞より響くかの
胸打つ男の慟哭の、いつ果てるとも知らぬうち
途絶え、途絶えて気のつけば
さあもうあれから、数え、数えて四十と九日。

樅(もみ)の木の、伐り出した薫りもいまだ其処
とどめて漂う、新しき卒塔婆の御前、
読経唱える若き比丘(びく)は、因果も異なこと、幼馴染みに
童子の頃にはすぐ西に広がる竹林、
そうして東に広がる深き森なかにさえも
二人ともにて遊び遊んで走り回った。

「こころ落とすなとは流石に私も口憚るが。」
……何だ、この、妙な感覚、夢のなかにでも居るような。
「分かっているさ。」
「これで御二人の魂魄は、まごうことなく、迷うことなく
極楽浄土にお着きになった。」
「あぁ、そうだ、そのとおりだ。」

比丘の、まるで童子のあの頃に
木より、ずさ、と、落ちては脚に腕にと、擦り傷に
赤き血をどくどくと、垂れ流しては、痛みに歪めた顔、覗き込む、
それ、その時と全く同じ、案じるこころの
深くこもる、視線を男は疎むかに
決して見ない、幼馴染みの比丘の方。

ひょろろ、と、鳶(とび)の一声に、二人仰ぎ見れば
天高く、鰯雲のなか、まるで泳ぐように旋回を舞い
飛び去った。



去(い)ねば、ひとり、家のなか。
村里より、一道、二道、三道離れてただ一軒、
『竹細工承り』
と、古竹の、飴色に黒光りする風雅の看板、簡素な門柱に結わえつけ、
後ろに竹林を、背負うように立つそれは、
広くもなど、あろうはずもなく、
家屋と云うより小屋と称する方の、よほど、しっくりと。
それでもなお、もてあます、ひとりではどうにも
ただ、ぽつんと、板の間に、座るばかり。

ふと、となりの間に目を遣れば
それ、其処に居るじゃあないか、居(お)るじゃあないか。


最早これ以上絞り切れぬというばかりの、
呻りと叫びの声を交互に。
聞いてもおられぬ、なんとすればと
ただ障子の前を行きつ戻りつ、握りしめた拳より
汗の伝い落ちるばかりに。
こうして待つ事一昼夜を優に越え、
そうしてようやくただ一度、ほぎゃあ、と、質の違う
泣き声の、響いたかと思えばようやくに
老いた産婆の皺刻む、血塗れた手が
隔てる障子をぬぅ、と開け
ややは、ほれこのように可愛らしい女子(おなご)ですや、
逆子なのによう頑張られた、頑張られたと
そのような、声の終わりなど待てる訳もなく
婆の腕のなか、静かに納まるややには一瞥
とにもかくにもと褥(しとね)のもとに、駆けつければ
滲み出しては玉となり、流れてはまた滲む汗
振り乱す、見事な黒髪さえも濡れそぼり
あぁ、と、臥す女性(にょしょう)の
紅潮した顔に浮かぶ、安堵の表情、そうして溜息。
乱れ、額に顔にと、まるで蜘蛛の巣のようにまといつく
黒髪を、手に梳くように。
「ようやったな、ようやった。」
そうして熱き、熱き頬に、そぉ、と、手を遣れば
「……わたし……たちの……」と
ただそれだけの言の葉を、絶え絶えに、白き唇に乗せたかと
思えば、脂汗にまみれた顔に
ふう、と、えもいわれぬ笑みを浮かべ、
すう、と、そのまま目を閉じた。

低く、野太い叫び声。
その、一間の、間もあっただろうか。

あぁ、と、すぐ傍に、
産婆の、赤きに染まる盥(たらい)のなか
もう一度、湯をかけ、抱き上げ、揺さぶって
口伝いにふうと、ふうと息を吹き込み
それでもだらり、垂れ下がる、
今目前に切り割いた、鹿の生肉のように
やわらかく、ぶよぶよとした腕の
先には豆粒のような、ちいさなちいさな五本の指。
赤き、血と湯の混ざった液が、
其処よりたった、一粒、ぽとり。
「臍の緒が首に巻き付いて、それでもひゅう、と
息吹き返し、そうして勢いよい産声をあげたから
もう何の心配も、ないと安堵していたに。」
声震わせる、老いた産婆の腕のなかより奪い取れば
我が腕のなかに、重きこうべをごろりと、あらぬ方。
腕に胸に、いまだ、濡れてつめたく、且つ、生温かい。

今、生を成したものが、もう骸(むくろ)。


“まだ、十九だった。”
十九の祝いを済ませて迎えた夏の祭り
産み月に、入っているから用心をと
手を引く男に微笑んで
気にかけてくださる、と
この日の為にと、自ら創り手渡した、
夕顔の、模様の団扇を頬に、染めた顔をそぉと隠した。
目に彩な、黒橡(くろつるばみ)の浴衣の襟より
覗かせる、結い上げた、白きうなじに後れ毛が揺れた。

「まだ、十九だった。」
思わず震える声に出せば、どうしてこんなにそれが響く。

部屋の隅には、いまだ手の付かぬ、伐り出したままの、竹の山。
ちらと目に遣り、ただ、ちらと。

“父の逝って、まだ二年も経たぬのに。”

途端、あぁ、と、妙な処に合点が行く。
そう、比丘の、あの言葉。
父の時にも、それ場所も同じ、
其処で、そう言ったのだ、ああ、そうだ。

「御前がお父上の元に、竹細工の、本格的な修業を始めたのは
私の出家と、ほぼ時を同じゅうすると、そうして御前の腕前たるや
その若さにて、お父上さえも舌を巻く、才花咲かせ
やまずにいたと、聞き及ぶ。
お父上には労咳に、今生の苦しみを苦しみぬかれたで
あろうけれども、生まれてすぐ母上を亡くした御前の身、
これよりは極楽浄土より、朝夕の区別なく、
常に見守っておられるに違いない。」

老齢に、足腰弱る主僧の役目の肩代わり
こなす、比丘もまた、たいしたものに違いはなかろうが。

そうだ……これは夢などではない。
現(うつつ)、うつつだ。
がらん、と、なにもない、現。



りぃりぃ、りぃりぃ。

ふと気付けば、いつの間にやら陽もとっぷりと。
仕様もない、灯心に火種を、と、立ち上がれば、
りぃりぃ、と、その調べ、何やらいつもにも増して喧しいような、
そうして何やら誘(いざな)いをかけ来るような。

あかり灯すのも後に、がら、と、戸を引けば
一瞬にして虫の音(ね)の止み、
一歩踏み出せば、ぎい、と、悲鳴をあげる足下の縁。
そうして生じた真の静寂のなか、
男の目に、五感に、飛び入るものといえば
手入れ怠り怠った、草茫々の荒れ庭のうえ
橙に、真円にはすこし欠けた、月の、これは
何色と称すれば良い、橙のような、いやもっと
黄味(おうみ)に赤の混じって畏ろしく、
曖昧模糊と、その癖に、趣きばかりは、刃のように冴え冴えと。
それが、すうと、何本もの綿糸のような、まとまっては
離れ、離れてはまた繋がる、雲をまるで
玉座のように従える様(さま)たるや。
そうしてそのひかりのもと、
荒れ放題の庭、あちこちに、まるで落とし物のような、月の影、月の影。

りぃ、と、虫の音ひとつ。

それと共にか、それとも一歩の出遅れをみせたか、
がさ、と、こちらも伸び放題の、垣の根より
ぬう、と、突き出す、黒き鼻面。

“何だ……?”
ぞぉ、と、背筋に走る、撫で付けるかに。

なんだ、ただの狐だ、すぐ西の竹林に、
東の森にならもっと、それどころかこのように
里にて出くわすのも何ら珍しくもない。

いや、違う……違う。
見よ、あの目、あの色。
獣の瞳の、闇にぎら、と、光の放つなど、誰しもの承知。
だが、これは。


照らす、十三夜月のひかりのもとに
垣の根より、姿、半身を現した一匹の狐は
いくら月明かりの元と云え、この宵、
その毛並み、ぼわと、浮かび上がるかの金に染めるなど、
それがそも、面妖な。
またそれに輪を掛けるよう、
人を畏れるどころか挑むかの、こちらもまた
金に、ただ金のひといろに、光彩放つ瞳とともに
それを雅とするか邪ととるか、いずれにせよ
これ現世(うつしよ)のものとは到底思えぬ。

あれは、あれこそが、月のひかりを浴び、
その妖(あや)しの力を術を、己がものとした証し。
なくば、何故(なにゆえ)、獣の身にて人を懼れず、
あまつさえ、そのぎらつく瞳にて、
こちらを挑発するかに凝視する、し続ける?

「おのれ──」

着物の裾、大きく割って、縁より、
一歩を地に、どう、と、踏み出せば、するが早いか
狐はくるりと身を翻し、嘲笑うかにふわりと遊ばせた、
金の尾の、真白き尾先の月のなか
眩いばかりに、光りの円を描き、描いて、闇の中。


りぃ、と、また虫の声。
雑草の、なかより背ひとつ高い、薄(すすき)の穂の、
月光浴びてうすぼんやりと、毛玉のように、ふわと揺れる、
凪と思うていたに、いや今まさに、
風さえもが、息吹を取り戻したかのように。


そうか、そういうことであったか。


裸足のままに、荒れ放題の、草茫々の庭のなか
ぼう、と照らす月の明かりの、なかに浮かぶは
ひとりの男の、ただ立ちながら、ゆらゆらと
芯をいずれに抜き取られたか、ゆらゆらと。
そうすれば、自然、影法師も同じように。

「ふ……ふふ。」

次瞬に、虫の音のぴたりと。

一度、噴き出した哄笑は止め処もない。
月の、十三夜月の、黄味帯びた、ひかりの照らす、静寂のもと
荒れ果てた庭に、裸足に、着崩れた着物のまま、ゆらと立ち、
その、笑い声のみの、高く響くさま、
その瞳の、目蓋開きながらも、何をも見つめぬ、
そのひかりこそ、色も知れぬ、底も知れぬ。

そうするうちに、眦(まなじり)より涙の滲み、
溢れ出て尚、止まらぬ笑いに、涙声にてまだ笑い。
笑うているのか、泣いているのかの判然も、つかぬ有様に。

「百か? 百でいいんだな?」

念を押す、相手はいずこ、また誰(た)ぞ、
歓喜にうわずる奇妙なる声の、荒れ庭に這って響き
十三夜月の、奇(く)しき明かりに照らされ、見遣る顔は
涙に濡れて、尚仰々しくに口を目を、大きく大きくに見開いて
これこそが、まこと妖かしたるもの以外の何物とも。

揺れる、ゆらゆら、ゆらゆらと、揺れ。



「やぁ。」
開け放たれた、扉にぬうと、肩首入れて、訪れたるは、猟師の木屋。
銃(つつ)の手入れに余念のない、
猟師はあまりの突然に、びくり、驚き、顔を上げる。

「これは。久しぶりだな。……この度は、なんとも。」
「いや。」
落とす、猟師の口調のなかに、にぃ、と、
まるで口割けるかに、笑う、奇(あや)しの、その顔。
何だ……?
ぞお、と、寒気の、怖気の、一瞬に、襲われたとしても、
猟師を意気地のないと、責められよう筈もない。

「狐罠がな、欲しいんだが。」
「あぁ、あるとも、はじけ罠で良いのなら。」
「それでいい。幾つある?」
「幾つ……?さて、手元にあるのは恐らく三つ四つ、だが。」
「さぁてな、それでは足りないな。」

何だ……これは、一体何だ?
猟師のこころに行き来する、不安をさえも凌駕した。
そのなかに、ただ、にぃ、と、笑みを浮かべて立つ、男。

「足りなければそれはいくらでも用立てするが。
しかしな、一体何だって、そんなに数が必要なんだ?」
「なぁに。傍の竹林の丘っ腹に、どうやら幾つも巣食ったようで。」
「……あぁ。それならば仕方もない。
 あれはお前の大切な、商売道具だからな。」
そう言って無理矢理に、硬まる顔に笑みを乗せれば
「そうなんだ。困るんだよ。」
また、にぃ、と、目を細め、ひときわ大きな笑みを浮かべ。

それゆえに、用立てば必ず届けるよと、返事をしつつも
猟師のこころは半ばの確信に、これは己の手に余る、
あぁ、そうだ、比丘ならば、ともかくも比丘に、話を、と。



持ち帰った罠を、とりあえずは東の森。
そう、童子の頃、幾つか実際に見た、
罠にかかりてもがく狐、その憐れな姿。

同じような場所に、餌を付けたる罠仕掛け、
次の日に、ようと見にゆけば、あぁ、面白いように、
四つの罠の、三つにまで、秋霜に備え、見事な毛皮をまとう、
狐の、罠に後ろ足を獲られながらも、尚じっと、
媚びなどの、一鱗のひかりも見せ遣らぬ、
挑むがばかりの、鋭き目付きにこちらをじい、と。

「あぁ、その通り、あはれよ、のう、あはれさ。」
ふん、と鼻に嗤いながら、その細く長い、美しき首に、
狐釣りの輪っか、するりと通し、ぐいと吊り上げ
身動きの、自由を奪ったその後に、持ち来た竹細工用の小刀を、
その咽笛に、あてがえ、しゅ、と、引けば、
鮮血の、びゅ、と、迸(ほとばし)る。

「さて、ひとつ。」
その声音の、ざわと枯葉の啼く、森に響く。
にい、と、口割り、目を細めて笑むさま、まるで、そう、
鏡に映せば、そのものに。
「憎き。憎きは、尾白の狐ぞ。」



戸を叩く音、風ではない。
誰ぞ、もう陽も暮れ、しかも今宵は無明の朔。
明日も早い、一刻も早くに出向きたいと、血の滾(たぎ)り騒ぐ、
それを押さえ込むかに、褥に滑り込もうとした矢先。
「何方か。」
内より訝しげに問えば
「夜更けに済まぬ。」
意外も意外、なんと、聞き慣れた、声。

奥の間に通す。
「坊主ならば、もうとうに就寝の時間だろうに。」
「なに、近くに、使いに出た、ほんのついでなのだが、
もう休もうとしていた様子、申し訳もない。」

言いながらも、比丘の視覚に、嗅覚に、五感全てに、
そうしてもうひとつの、名状しがたき感覚に、
全てが答える、猟師の話、それを、是と。

一目に判る、ただ、何物かが判然とせぬ、それだけ。
瞳の奥に潜む、もの。
体躯だけが、元のまま、ただ、傀儡(かいらい)と、
傀儡(くぐつ)と成り果てた。

「流石に僧ともなれば、嘘の不得手も無理はない。
何、いつ尋ねても留守なので、この夜更けを
狙うよりなかったのだろう。
聞こうじゃないか、用は何だ。」
頭(こうべ)、ゆるり比丘に向け、にい、と、笑う。

「竹細工の仕事には、未だ手つかずに
朝な夕なに、森や林を、彷徨いていると噂に聞く。」

比丘には、一片の畏れもない。
ただ、悲しみのようなものの、其処に。

「狐を罠に、毛皮を仕立師に卸すでなく、
肉、腑(はらわた)を、黒焼きにするでなく、
ただ、殺(あや)めていると、こちらも噂に。」
「百里を走るとは、好う言うたもの。」
次には頭(こうべ)のみ下に、く、と笑いも堪えぬ。

「ではまことだと。否定もせぬと。」
「屍肉は次の、餌用に捌(さば)きはするがな。
輩(やつばら)と来たら屍肉の共喰いも、厭わぬどころか
それを好物とする有様ゆえ。」
もうひとつ、く、と。

「その他は、そうよ、まこともまこと。
今ようやくに、数えて三十と六。
後に残すは、六十と四。
すれば……」
「すれば?」

比丘の、刃のごとき、鋭き言葉の、入れば、
また、ぬうと、頭を上げ。
「すればな。救われるのよ。」

ぎら、と光る、瞳。
「好いか、知りたくば教えてやるさ。
満月に、いまひとつ欠けた月光のなか
まさに、その欠けた部分を満たすかに
俺は真実(まこと)の天啓を得た。
全ては俺に、呪いをかけた、妖狐の成せる業よとな。
俺を産み、産んだが為に、死んだ母。
俺の子を、産んだが為に、死んだ妻。
俺の子で、あったが為に、死んだ女子(おんなご)の、
盗み取られた魂魄(たましい)の、
俺が百の狐の命を取らば、
それがようやくに救われるのよ。」

ぎい、と、首が動いて、底のない、瞳が光る、
ゆらとゆらめく、蝋燭の灯火のもとに。
「妖狐は古来、女の性を厭う、
何、優れて頭の良いお前には正にこれ、釈迦に説法よな。」
くく、と。

「あぁ、そう言えばこんな事も。」
今度はまるで、夢見るような。
「お前も覚えているだろう、まだほんの餓鬼の頃
父が得意先にて、仰山に、生まれたからと、
母の居ぬ身に、寂しいこともあるだろうと、
それは可愛い三毛の仔を、一匹、俺に与えてくれた。
そうよ、お前は知っている、
俺があれを、どんなに可愛がっていたか。」
「あぁ。」
「そうしてたったの半年の後、訪れた事の顛末も。」
「……知っている。」
「そういう事さ。」
にい、と、笑う。

頭だけが、庭の真中に。
ふわふわと、三色の毛が、まだ、あちこちに舞い。
狐か、と、ぽつり、父上の。
そうして偶然、その場に居合わせた自分、
その三人にて、庭の端、土を掘り、埋めて、
なむあみだぶつ、と、手を合わせ。
表情(かお)歪ませて、父上の、手前もあろう、
必死に堪える男の横に、情けのないこと、どうにも耐えず、
涙を流して、ごめん、と、ひとこと。



「……何と云う。」
比丘はただ、睫を伏して、右の手の、
人差し指の、腹を、眉間に当て。
「例え御前の言う通り、御三方の魂魄の、
それで極楽浄土に昇華したところで
無闇なる殺生を繰り返したる御前の往き先は
奈落より他にあろう筈もない。
すれば永劫の時経ずに、巡り遭えも出来ぬと云うに。」

「ははは!」
脳蓋に、罅も入るかの、甲高い。
「これは異な事、袈裟纏う者の言葉とも思えぬ。
南無阿弥陀仏、ただ一言、そう唱えるだけに、
悪人なおもて極楽浄土に。
さて、罪なき狐を百も殺した極悪人と、
成り果てる俺ならば、浄土への道、約束されたも
同義であろうが、違うのか、ええ、違うのか?なぁ、比丘よ。」

比丘はただ、首を振る、眉間に付けた、指をそのままに。
その比丘に、尚も絡みつく、払い除けてはまた絡む、
伐れども伐れども、伸びて、纏い付く、蔦のように。

「なぁ、比丘よ。出家とは憐れな身よの。
不幸のひとつもない限り、生家の敷居のひとつも跨(また)げぬとは。
だから、なぁ、比丘よ。知らぬであろうから教えてやるさ。
染め物師の長子に生まれながら、後も継がず
十二の歳に、己の好き勝手に、捨てた家の、
その後(のち)の、有様たるや。
母上も、幼き妹御も、それはそれは気の毒に、
日々泣き暮らし、日に日に窶れ、
父上ばかりは気丈にも、職人としての堅気を守れど
その心根の、想像だに難くない。
しかもお陰で妹御は、その後に現れた好き合う人と
添い遂げる事さえ叶わない。
そうしてお前はただ一人、親不孝、兄妹不幸の限りを尽くし
なおもて人様にまで有り難く、御説教を垂れる始末。」

「……成る程。」
左手首に巻き付けた、紫檀の念珠を手繰り、手繰り。
「言いたい事はそれだけか。」
「これもまた妙なる言い種。夜更け押し寄せ来たのは其の方。」

比丘は無言に立ち上がる。
同時に、撥条(ばね)のように立つ、男の顔を、
じっと、見つめる、寂静の、瞳。
思わず、細めた目に、知らず、片足の、ず、と、下がる。


「邪魔をした。」
後ろ手に、引戸を引き閉じれば、がた、と、音。
朔の夜更けに、持つ提灯の灯心に火種をつければ
ゆらゆらと、和紙のなか、和蝋燭の、樹脂の溶ける揺らぎは
極めて不安定に、時にはひどくおおきく、時には消えて
なくなるかにちいさく。

歩むうち、つう、と、涙の、一筋の、
流れ落ちるのを、止(とど)めも出来ぬ。
忸怩に、慚愧に、憐憫に、心奥底よりの詫びの気持ちに、
それとも真たる悲しみに。
さてそれは、本人にさえも判然とせぬ。

“理由(わけ)があろう、言ってみろ、包み隠さず。”

“寺子屋で、習った説話が、良く分からなくて、
分からないから、色々と、調べたけれども腑に落ちなくて。
近くで托鉢をしていたお坊さまに尋ねたんです。”

“お坊さま。『善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。』
私にはこれが佳く分かりません。それでは人の
善く生きる意味は、一体何処にあるのでしょうか。”

“そうすれば、お坊さまは、それはとても難しい、
それを知りたいので、私はこうしているのだよ、と仰いました。
だから、私も、そうしたいと思ったんです。”

“……全くに。鬼子のごときよ、阿呆な両親(りょうおや)の
元に生まれたとも到底思えん。
なぁ、坊主。お前の覚悟は、その目ぇ、見れば、如何な
阿呆な俺にも一目瞭然というものよ。
だがな、いいか、俺のただ一人の息子。
夢ゆめ思うんじゃあない、どんなに厳しい修行を積んだ処で
所詮、人ひとりに何の違いもありゃあしない。
その身で、人様を、救えるなどと、戯(たわ)けた寝言は、
決して、決してな。”


“そのとおりだ。”
陽光の、下(もと)にであれば、金に紅にと色鮮やかな
今はただ、沈んで濃淡の、灰の一色(ひといろ)。
“そのとおりだ、そのとおりだ、なにもかも。”
口にも出せず、音(おん)にも発せず
ただこころに繰り返すばかりに
いつまでも、いつまでもその思い、止(とど)め遣らず。
思わず瞼を閉じれば、また、両の目より、
こころそのものの、溢れ出したかの、頬を伝い。

あちらには秋明けの花、こちらには野の菊の
野辺の乾いた道の上、まこと恥じ入り固い拳に頬を拭えば
一歩を大きく、ぐ、と、草履の下、強く、踏みしめて、
そうして比丘は歩み行く、この地の上を、ただひとり。



「何故だ。」
西の竹林、東の森、合計に十の狐罠
日に少なくとも三匹の、罠にかからぬ試しもなくに
今日まで来たのに、まるで一匹も、とは。

まぁ、そんな日もあるさ。
それに今日は何やら妙な、妙に頭の、芯の辺りに。
そうよ、昨夜の歓迎せざる客のせいで、睡りの足りぬ故もあろう。
こんな日は早くに戻って休むが善しよ。

だがどうした事、次の日にはようやく一匹、
その次の日にはまた、どれも。
おまけにどうしても消えやらぬ、家に居れば何ともなくに
狐を取りに出れば、ぎり、と、脳髄に、締め付けるような。

これではどうにも、埒のあかぬ。
あぁ、そうか、そうよ、恐らくはもう、
この辺りの狐は狩り尽くした、そうよ。
ならば場所の移動に、済む話。
何、あの家になど、もう、何の未練もありはせぬ、
戻らぬとも、構わないさ、一向構わない。


子を持つゆえにと貯め置いた、蓄えも最早、底をつき
父の遺(のこ)した典雅なる、芸術品と讃えられた
竹編細工品の、ひとつ、ふたつ
そのうえに、花嫁道具にと、妻の持ち来た、反物にさえ手を付けて
そうして捻出した金子に
猟師の元に新しき、狼・熊相手の護身の銃を入手ののち
重い狐罠を十も持ち、西の竹林を抜け
一山を越えれば、未踏の山のなか
当てのあるやら、ないのやら、歩き歩けばその内に
それこそ何かに導かれるかに
古くは樵夫(きこり)の住処(すみか)にでも、
今や荒ら屋と化す廃屋の、目の前に。

狐釣りを生業とする、者達との諍いを避けるべく
それでも自然、身に付いた、輩どもの通り道
仕掛ければほれ、思いの通り
目前とする厳冬に、ある餌ならばその全て
腹に蓄えたい狐の、あちらにも、こちらにも
面白いように、かかる事、かかる事。

いくらたいした積雪を、見ぬこの辺りの気候といえど
隙間だらけの荒ら屋に、冬は流石に身にも堪える。
早くば早くに越したこともない。
それに加えていまだ、理由(わけ)もわからぬ、
脳の、随液でも絞り出したいかの、痛みの消えることもなく、
こちらもまた、同じように、この廃屋に、
おればなにごとも、痛みのあった方が夢とばかりに。

黄の紅の、葉のはらはらと落ちて、
灰褐色に先を尖らす枝、また枝。
吹きすさぶ風の、落ち葉を舞い舞わせるその頃には
早くも、残りはあと、片手に数えるだけ。


朝靄にけぶるなか、吐く息が巻いた白玉のように
そうしてすぐに砕け散る、その繰り返し。
一匹、二匹、三匹目。
ふと見れば、すぐ傍に、真綿のように真白き毛玉のような。

“なに、こんな季節に仔狐とは。”
見れば確かに、架かる獲物は牝狐に、けれども乳の張る様子もなく
また周囲に、兄弟仔の、居る気配もない。
なに、どちらにせよ、なんら己には関係のない。
いつもと同じ、手練れ、手練れて、とうとうに。

どくん、心の臓の音がした。
「百。」
喜悦のあまり、うわずった声が、
ざぁ、と雪待ちの風に、舞い乗って、流れゆく。

ふと見れば、血に、どこもかしこも赤く湿った土の上
逃げもせず、真白の仔狐はそのままに、血の赤に毛皮染めることもなく
紅い、白子特有の、紅い瞳に、じっと男をみつめている。

「なに、憎きは尾白の狐、それのみよ。
お前のように、体中の白いものには、もとよりなんらの興味もない。
それにもう、今の輩で、とうとう成就した。
あぁそうよ、俺は成就した。
……そうか、そうか、お前、白狐(びゃっこ)であろう、
さすが、瑞兆の、運び来るとは、まことなのだな。」

至上の喜悦、その極みのなかに、興奮も醒めやらぬ
正にその時、ぎぃ、と突然に遅い来る、脳髄の、
余りの激痛に眼球は見開かれ、手はぶるりと痙攣に。
叫び声さえ、あげも出来ぬ。

少し波の治まれば、ようやく自由に動く、手に頭抱え、
身を屈め丸まれば、ふと気付く、傍に生温かい感触。

なんだ、と顔をあげれば、その間近、ほんの間近に。
なんだ、こいつは、新雪よりも、白い綿毛。
そうして、瑪瑙もかなわぬ、輝く紅の瞳。


どうしてそんなに俺を凝視する、
お前にはなにもしないと言っただろう。
……何故そんなに俺をみつめる、その紅い瞳に。
なんだかまるで……何だ、この感じは、なんだ……。

思わず腕を伸ばせば、ふわり、仔狐は、逃げもせず。
それどころか、自ら男の大きな掌の上に、
血のりに赤く、べとつく其処を、嫌いもせずに、ちょんと収まって。
この感触。まるで、あの三毛のようだ。
あぁ、ほんとうに、三毛のようだ、三毛のように、
やわらかくて、あたたかい。

「母親を、殺した俺を憎んでいるのか。」
無論のこと、仔狐は何も言わぬ、ただ、白く、長い尾をふわり、
そうして掌のなか、逃げもせず、一心にみつめ続ける、
紅い瞳に、男の黒い、瞳、その、奥を、奥底を。

そうするうち、これもまた不思議とより形容のない、
耐えられぬ程の、痛みの、ゆっくりと消えゆくなか、
時を同じくして、何物か、さて、何物かと問われても困る、
それが、まるで蛇の、水辺を泳ぐかのように、波打ちながら
男の内より、流れ出る、勿論、目になど、見えはせねども。

そうして、男の目の、底に、人のそれの、戻り来て。


そろり、仔狐を、地の上に。
「その体躯ではまだ乳飲み仔だろうに、母親が居なければ
育つ筈もないけれど、連れて帰ったところでどうしてやる
訳にもゆかぬ。」

立ち上がり、去りゆく男の後ろ姿、
その紅き瞳にじっと、みつめていたかと思うと、
これもまた不思議なこと、血のりの掌の上に居ながら
真白の綿毛の、何処にもその跡のない。
そうしてまだ美事とは言えぬ、それでも大きな
真白き尾をふわり、身を翻せば、ぱっと、散じて、一体何処に。



久し振りに、竹林を、背に負う家屋に、戻り来てみれば、
当然のこと、荒れぶりは、目を覆うばかりの。
だが、丁度好い、以前のままに、とまではいかなくとも
せめて住み心地の、悪くはないまでに、身体を動かすのは。


家の方の片が付けば、
西裏の、竹林に足を運んで、直に手に竹の感触。
霜降りる厳しさにも、凜と、青く、気高く、手に触れれば
清しい冷たさに、ただもう、湧き起こる、湧きあがる、
言いしれぬ慚愧の、そうしてただもう、懐かしい、
悲しいばかりに懐かしい、その思いに、冷たき青い竹肌に
頬を押しつけては、自然、閉じられた、両の目より、
すうと、涙のひとすじ。

新調した、小刀を、身に馴染むように研ぎ澄まし
そうして目を閉じ、深呼吸の後に、
伐り出した竹に、刃を入れる。

思えば半年もの間、竹に触れさえしないでいた。
ほんの童子の頃より、父の手付きの、まるで魔法のような
縒(よ)るかの、織るかの、竹の編み、
自分に出来るなどとは到底思えもしなかったけれども
何、教えてやれる事などひとつもない、
ただ、竹の、なりたいと、思うている方に、切り、
曲げ、捻(ねじ)ってやれば好い、まずはやってみるが好いさと
そうして、不器用な手付きにも、何、巧いもんじゃないかと、
父とのやりとりの、今ここに、浮かぶような。

気がつけば灯りも付けぬまま、食餌も取らぬまま。
麻の葉の、石畳の、六つ目の、網(なわ)代の。
全ての編みを、身体の、五体の、忘れずに居た、
編みを、ただもう夢中に。


狐の憑いたと、噂はこれも当然に
今更竹細工職人として、生きてゆけるとは考えも
及びもしないことであったけれども
出来上がった竹細工、盆に御重、花駕籠に行灯、さまざまの器
それらを門の外、置いておけば、時に人の
お譲りを、との、温かい言葉をいただきもして。
そうする内に、思い切って、里に持ち行けば
当然のこと、気味の悪いと遠巻きに、する人々のなか、
一月、二月と経つ内に、ひとり、ふたりと。

そうして一冬の過ぎ、春の気配たちこめる、
その頃にはようやくに
昔ながらの美しい、美事な竹細工の戻って来たと
里中の人々にも受け入れられ。


戻り来て、すぐにはどうにも足の重すぎて
片付けも一段落すれば、ようやく毎日のように、
けれどもこれもなかなか因果なこと、仕事に追われるようになれば
ただ四人の命日にのみ、季節の花と、水だけを持ち、卒塔婆のもとに。

桜の季節ももうすぐ終わり、
散り際の、花の吹雪のそのなかに、
ふと、比丘と出くわした。

「やぁ。墓参りとは、心がけの好い。」
比丘に浮かぶ、微笑みの。
あぁ、と、男は思い出す、それはまるで昨日のよう。

寺子屋に、隣り合わせたが縁の始まり。
ひどくに頭の良い癖に、そんな素振りも、おくびにも。
共に遊んだ、悪さもして、すれば共に拳骨を食らった。
懐かしい、ただ、懐かしい。

「お前だろう。」
「……何よ、突然に。」
「檀家回りには益々に精出すのだろう。」
ふ、と微笑む。
「可笑しな奴だな。いつものことだよ。」
「俺の竹細工の品をと、ふれて回ったな。」
「……当節は、説法話だけには詰まらぬと、
そんな御仁も少なからず、すれば、僧とて、
色んな話を、そりゃあ、するさ。」

ひょろろ、と、鳶が舞った、いつぞやのように、
ただ、今は、花曇りの空のなか。



季節は巡り、りぃりぃと、虫の音の美しい。
陽も落ちた、今日はこの位にするかと
手を挙げ伸びをしながら、庭への戸を引いて
縁にどう、と腰を掛ける。

東の空には、十三夜月。
あぁ、あれからもう、一年が経つ。
思えば色んな事があった。いろんなことが。

そのとき、ふと。
垣根より、真白き立派な体躯の狐が、顔を出した。
黄味に赤みを帯びた、幽玄なるひかりを浴びて、なお
ただ白に、純白にぼやと、光まとうかの。
そうしてその、真中に光る、煌々とひかる、ふたつの紅の瞳。

「やぁこれは。」
男の顔に、本心よりの、慈愛の表情。

「よく生き延びた。何よりだ。本当に何よりだ。
よく此処が分かったな。」

じい、と、見つめる、珊瑚も及ばぬ、紅の瞳。

「俺の首を取りに来たか。好いさ、逃げなどはせぬ。
取られるだけの事を、いや、それ以上を俺はした。
……そんな事などしなくとも、母も、妻も、生まれてすぐに
死んだ子も、極楽浄土以外の何処にも、往く筈もないことなのに。
心の隙に、入り込まれ、そうして魅入られた。
全ては、俺の、弱さの故。
……さぁ、白狐よ、遠慮など無用。」

白狐(びゃっこ)は、ただ、じっと見つめる、その紅の瞳に、
仔狐であった、あの頃と、寸分のたがいもなく。

「……全くに、不思議な瞳よ、その瞳。
全てを見透かされるように、ぞおと、畏ろしいのに、
どこか、身の、清しく落ち着くような。」
ふう、と、やわらかな微笑みを落とす。
庭の、薄(すすき)の、ゆらと揺れ。

「なぁ、白狐。
俺の浅知恵に、ただ思うばかりだけれども、
彼方も此方、彼岸も此岸、どちらも同じ、おなじ事よ。
お前に食い千切られようと、
このまま天寿とやらを全うしようと、同じこと。
俺はただひとり、奈落に落ちて、何万由旬の彼方、上方に居る、
妻や、子、両親に、いまひとたび相見(まみ)えるのは
那由他の生まれ変わりを経て、後(のち)のこと。
なに、誰あろう、己がそうした、それだけのこと。」

白狐の、紅の瞳の、何やら好くは分からぬ、
月の光の加減か、ひといろ、違う輝きを発したと思えば、
くるり、身を翻し、姿を闇に消したのだけれど、
白き、美事な尾をゆらり、ゆらり
残照のように、それはいつまでも、いつまでも、男の瞼に焼き付いて。



その後、男はずっと、里より二道、三道離れた家屋にて、
竹細工師として、竹を相手の一人仕事、
人の薦めも幾らかあれど、妻を娶ることも、
また、里をあげての夏祭りにも、ただの一度も足を向けず、
ただ、ひとり。

そうして月日は流れ、ただ刻々と流れゆき、
これもまた、縁(えにし)の成せるか、
父親の、同じ年齢に、同じ病に。
だが男には、いまや、ただあるがまま、
あるがままを受け入れて、それのみに
姿を見ぬようになったと、心配りに訪れる、
人の親切あれば、有り難きとそのままに
なければひとり、臥すままに。
ある、秋の、夕暮れ告げる、虫の音に包まれて
看取るものひとりもなきなかに
その魂魄、今、骸と成った、体躯より、ふわり、浮き上がる。

その間、一沙、一塵の狂いもなく
けぇん、と、空(くう)に響き渡るものあり。

それは何であったのだろう、
ある人の、神鳴りと、またある人の、地鳴りと、山鳴りと。

ただ、比丘のみの、日々の修行のなかに在り、
在りながら、その妙(たえ)なる響きの耳にして、その刹那、
今、この時の、男の往生、そうして、
その、魂魄、その“啼き声”にて誘(いざな)われ、
迷うことなく、高みに導かれゆく様までも、
映し絵のように、あざやかに
閉じられた瞼のうちに。

そうして比丘は、まことに知る、
幼きころ、分からずに居た、ただ分からないだけになく
囚われ人のごとく、こころ惹きつけられ、やまずに居た、
辛く厳しい修行のなかにも、いまだ判然とは成さずに居た、
ひとつの、ことわり。

“南無阿弥陀仏。”
こころのなかに、ひとつ。


その夜、同じ、十三夜月の、
ただ、ぼやりと、天のなか。



さてお話は、これでお仕舞い。
嘘か真か、信じるも信じぬもご自由に
ただ、語り部の、滔々と、
十三夜月、その彩なすひとつの国の、
幽(かそ)けき、幽けき、ものがたり。